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頼まれてもないのに。その47(令和五年大相撲初場所を振り返る)


 百花繚乱、群雄割拠。
 絶対的主役が不在なだけと言われてしまえば身もフタもなく、だけどこういう時だってあるさと割り切ってしまえばこれはこれで楽しいもの。
 
 とはいえ毎場所毎場所平幕に優勝をかっさらわれてしまってばかりでは、じゃあこの番付ってやつはいったいなんなんですか意味あるんですかと愚痴の一つも言いたくなるというもの。

 番狂わせもけっこうですが、番狂わせに熱狂できるのも、ちょっとやそっとじゃ崩されない強さの秩序があるということの裏返しだったのだなということに気づかされた平成4年でした。

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 というわけで平成5年の最初を飾る東京両国1月場所。
 先場所に引き続く横綱照ノ富士の休場の結果、一人大関として力士界のトップを実質担わされている貴景勝が番付通りの結果を出せるか。
 結果出しましたね。12勝3敗での幕内総合優勝。3回目に手にした賜杯は13場所ぶり。3敗はこの大関の取り口を考えると仕方のないことです。
 私たちファンが思う以上の重圧がかかっていたであろう中、関係者たちの期待から逃げることなく大関の務め、番付秩序の維持という重い責務をしっかり果たしました。

 貴景勝の最大の弱点は「組まれたら終わり」。四つ相撲がいっさい取れない。そんな貴景勝の千秋楽の一番にはしびれました。まさかの自ら琴勝峰の懐に飛び込んでいったかと思ったらそのまま速攻のすくい投げ。相手の勢いを利用してのお見事な流れ。
 まわしが取れないなら投げてしまえばいいじゃない。小手投げとすくい投げ。伝家の宝刀として今後もお目見えするのでしょう。

 一人大関が番付通りの結果を出した。たったこれだけのことで今年は良い年になりそうな予感を感じています。

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 とはいいつつも、琴勝峰優勝するのも悪くないなあ、なんて思っていた私もいたのは事実です。
 一度目の幕内上位で跳ね返されたあとはケガの影響が大きかったのか一時は十両まで番付を落とし、相撲内容もいまいち冴えず、このまま「このあたりの番付の力士」で終わってしまうのかと心配していたところ今場所の快進撃。ついに復活ののろしでしょうか。
 同じ部屋ではサラブレッドの琴ノ若が急成長していることもあり、ここ数年は陰に隠れたようになっていましたけれど、体格のバランスといい相撲内容といい、実のところ私は琴勝峰のほうが「推し」だったりするのです。まだまだやや相撲が素直すぎるきらいがあるなあと初場所(阿武咲戦および貴景勝戦)見ていて思いましたが、そんなのは経験を積めば改善されていくと思いますので。
 今場所の成績がたまたまと言われないよう来場所以降が勝負になります。有望な若手が百花繚乱組にまた一人名乗りをあげたようです。

 琴ノ若。おっとりした雰囲気やしゃべりの中にとうとうと流れ続けている音なき闘争心。去年あたりからこのお相撲さんに対する見方が良い意味で変わりまくりです。この子は本当に気が強い。そしてそれをほとんど表に出さない。琴櫻おじいさまの現役時代を知りたいもの。おじいさまは当時どういう力士だったんだろう。
 前半は決して調子がよさそうに見えなかったのに、場所が進むに従い持ち直し、初の三役場所を千秋楽勝ち越しで締めくくったのはお見事でした。
 
 琴ノ若とは対照的に闘争心を表に出しまくる力士の一人が豊昇龍。今場所は場所中の負傷という不運にも見舞われつつ休場は一日のみにとどめ強行とも思われる再出場。明らかに痛みを感じさせる取組を重ねながらも、まさかまさかでこちらも千秋楽に勝ち越しの給金直し。しかも千秋楽は相手の反則負け。彼もまたどうやら土俵の神様に愛されている力士の一人のようで。
 個人的な思いとしては、本人の足のためにも、対戦相手の取りづらさを考えても、こういう強行出場は評価したくないのですけれど、だけど勝ち越したんだから仕方ないです。結果がすべてだもの。ケガの原因ともなった強引な取り口はこれをきっかけに見直してほしいんだけどなあ。

 若隆景が大関獲りに苦戦しています。仕方ありません。だって関脇以下の上位陣が強すぎます。場所ごとに入れ替わり立ち代わり調子良かったりいまいちだったりするだけで実力的にはほぼ同じなのではないかとさえ。ここから実力的に頭一つ抜け出すのは至難の業。がんばれ。兄若元春も一緒にがんばれ。
 現番付での相対的な実力としては兄弟大関も夢じゃないと思います。

 大栄翔が久々に元気で嬉しい私です。押し相撲ではこの人の相撲が一番好き。霧馬山は小結で11勝、意外にも今回が初の技能賞。霧馬山はなによりも指導者に恵まれているのが大きいです。霧島と鶴竜ですからね、もっともっと強くなり活躍してもらわないと。

 阿武咲は最後の最後で持ってなかったのが悲しい限り。一度は単独トップに躍り出ていたのに三賞までも無冠でフィニッシュとは。今場所実によかったのに。自分の相撲を見失うような崩れ方もしなくて押し相撲に邁進できてたのに。なんで千秋楽にまげつかんじゃうかなあ。
 益荒雄のお弟子さん。大好きだったな益荒雄。阿武松親方を退職されてから今どうされてるんだろう。お元気でいてくださればよいのだけれど。

 幕内中位以下については今場所も期待を裏切らない平戸海の相撲。さらなる成長がますます楽しみで仕方ありません。
 東龍は幕内10場所目にして初の幕内勝ち越し、おめでとうございます。

 今場所もほとんど十両以下の相撲を見ていないので新たな顔ぶれの情報更新が全くできていないのですが、どうもまた面白いことになりそうですね。
 一年もたたないうちに主役も話題も新たな誰かにあっという間にかっさらわれる角界の勢力図。昨日の勝者はいまいずこ。
 話題にするのもはばかられる弱りっぷりでもせめてファンに対する最低限の強がりだけは捨てないでくれたなら、変わらず声援を送り続けることができるのに。

 そんな時代だからこそ一人大関貴景勝が優勝したということの意味は極めて大きいと感じます。
 あらためておめでとうございます。

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 隠岐の海引退。寂しい限り。今やもはや貴重ともいえる四つ相撲の力士。土俵の去り方までこんなにあっさりしていて、でもなんだか「らしい」といえばらしいなあとも。
 執着のなさみたいなものを常に漂わせていた力士。人がうらやむものを無自覚に持つ人特有の潔さというのでしょうか。努力も苦労も当然なさっているはずですが、それらよりは素質がより際立ったお相撲さんだったなという印象です。
 大関にも横綱にもなれたはずの逸材。だけどならなかった。なりたかったのかな。どこまで本気だったんだろう。闘争心が本当にあったのかなかったのか、真意のつかめなさもまたこの人にしかない魅力。
 隠岐の海の相撲、美しく堂々としていて好きでした。お疲れさまでした。

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 2か月後の春場所はいったいどんな場所になるんでしょうね。
 話題的には貴景勝の綱取りということになるのでしょうがいまいちピンときません。今場所急に失速した阿炎やケガで途中休場の高安がこのままなわけなく鉄人玉鷲は今年も変わらず元気いっぱい。横綱が無事土俵に帰ってくるまでこの混沌状態を引き続き楽しむことにします。

 今年も充実した土俵が楽しめますように。


武者修行中です。皆様に面白く読んでいただけるような読み物をめざしてがんばります。