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[噺のネタ]番外編(『本物』を目指して~市馬の教え)

2005年、ありがたいことに師匠、柳亭市馬に弟子入りすることが出来ました。

アタシの前にも入門を頼みに来た人が何人もいたそうですが、弟子に取った人はいませんでした。

アタシが一番弟子です。

師匠もまだ43歳、あまり仕事がなかった時期でしたので、ずっと一緒にいましたし、様々なことを教わりました。

お稽古に関して言われたのは「出来るだけネタ元に行きなさい」ということでした。

A師匠が面白くした噺は、ちゃんとA師匠に教えてもらいなさいと。

当たり前の様ですが、案外みんないい加減です。

安直にキャリアの近い者同士で教えあってしまいます。
お互いの芸がそれに相応しい者同士であれば別に良いのですが…

例えば、白酒師匠から習ってきた『松曳き』を、仲間内で教えあっている二ツ目達を、随分と見ました。

アタシが、某師匠にお稽古のお願いに伺うと「何習うの?覚えたらその噺、オレにも教えてよ」と言ってきた先輩もいました。

アタシに『夜鷹そば屋』を頼んできたので、「いや…それはさすがに雲助師匠に…」と答えたら「じゃあやらなくていいや」と言った人も(怒)

ネタ元の師匠は大抵ベテランの方ですから、億劫なのはわかりますが、そこで手を抜いてはいけない。
きちんとした方にきちんと教わりなさい。
それが市馬の教えです。

『筋をきちんと通す』という師匠の教えでしたが、アタシも『本物』から教わりたかったので、仲間内でのネタ交換はしてきませんでした。
(あ、一度だけ後輩の㐂三郎さんとネタの教えっこをしましたが…その噺は覚えたけれど高座に掛けずに今日まで来てしまいました。)

不器用な自分が『本物』になろうと思ったら『本物』に習わなくてはなれない、と思ったからです。

おかげさまでネタも随分増え、やりたい噺はあらかた教わることができました。

これからは、頭で覚え、身体に染み込ませてきた落語を、もっと自由自在に掛けてみたいです。

ただ自由すぎると「古典」の領域を踏み外してしまいがち。

だからこそ、今まで『本物』に教わってきたことがここで役に立つのでは。


(2024.6.23 11:41 HPに投稿)


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玉屋柳勢(たまやりゅうせい)とは>
落語協会の噺家。2020年真打に昇進。
六代目 玉屋柳勢を襲名いたしました。
これまで師匠方から「直に」受け継いだ落語。
それはアタシの財産です。
その楽しさと良き伝統をお伝えできたら嬉しいです。


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