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落ちこぼれシニアのリベンジ読書~『父の詫び状』向田邦子著~

あ~、こんな素敵な文章が書きたいな。
著書をよんで、そう強く感じた。
視覚を中心に五感あふれるエッセイ集。
内容も著者の父を話題とするものがメインとなっている。よくいわれる「昭和の父(特に戦前のようだ)」をあちこちで感じる。
昭和30年代生まれの自分にとっても、「あるある」と思わず叫びたくなるような記述も随所にみられる。
 
印象的だった作品は「学生アイス」。
著者がアイスクリームの訪問販売のアルバイトをした経験を記したもの。もっとも最終的には父にアルバイトが見つかり強制送還されてしまう。
訪問販売は、素人の学生が簡単にできるものではない。結果オーライではあるが、訪問した会社や団体の方々にかわいがられて購入してもらっただけではなく、次の販売先の紹介をしてもらったようだ。いい流れだ。当然成績はよかったらしい。きっと商才があったのだろう。
 
また、「あとがき」は著者の人間性がにじみ出ていた。
癌を患った際の思いだろうか、
「厄介な病気を背負い込んだ人間にとって、一番欲しいものは「普通」ということである」
「はじめの一年、「癌」と「死」が目に飛び込んだと書いたが、二年目に入ると「生」という字が心に沁みた。しかし、この頃では、三つの字を見ても前ほど心が騒がなくなった」
「一番の薬は三年という歳月であるが、文章を書くことを覚え始めた帳合いも精神安定剤の役目を果たしたようだ」
という記載があったことは印象的である。
 
作品は「死」に対する不安はいっこうに感じさせない。ただ、不思議なことに「飛行機の墜落」を不安に思うという記載がいくつかの作品にあった。これも何かの偶然だろうか。
著者の不幸な死からもう40年が過ぎた。改めて当時の驚きを思い出すとともに、人間味あふれる素晴らしい著作に大きな感銘を受けた次第である。

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