ワクワクリベンジ読書のすすめ~『海の沈黙』ヴェルコール著~
ナチ占領下のフランス。ドイツ軍将校が寄宿することになった家に住む叔父と姪の「沈黙」による精神的抵抗と、独仏融合という理想を抱き信じながらもナチ占領政策の実態を知った将校の失望の形を通じて、大義の有無に関係なく戦争の無意味さ、不条理さをあらわした作品であると思う。
特にこの作品は、フランスの抵抗文学をけん引したヴェルコールが、地下出版のかたちで世に出した第一作目。当時のフランスのレジスタンス活動家たちの心の支えとして広く読まれたらしい。だが一説によると、ヴェルコールの描く「沈黙」による抵抗という形態は消極的であるという見方もあったそうだ。それだけナチスが引き起こした過酷な殺戮の状況が、フランス国民の心に悲惨な記憶として残っているということだろうか。
個人的には、「ドイツ将校の失望」に当時のドイツ国民の実態を垣間見ることができる。雄弁でプレゼンテーション力のある偏った思想のリーダーに洗脳され、翻弄され、気が付いた時にはとんでもない状況になっていた、ということなのだろう。正しいことを正しいと言えない社会。強い権威に帰属し、逆にその中に安住することでいつしか誤りにも気づかなくなっていた。何が正義かも見失ってしまっていた。
戦場カメラマンのロバート・キャパの作品に、赤子を抱いた「丸刈りにされた女性」の写真がある。ナチスの協力者として町中を引き回され、群衆から嘲笑われているというショッキングなもの。
その背景・詳細は不明だが、これも正義を見失ったことによる強いしっぺ返しということなのだろう。
「沈黙」による権威への抵抗。それは一市民としてできる精一杯のもの。しかし、ささやかではあるが強い抵抗感を示す「力」であると感じた。
最後に沈黙を破る姪の一言。「御機嫌よう」(岩波現代叢書P59)は印象的だった。
ドイツ人将校のフランスへの思い、志願した激戦の東部戦線への転地という自分自身とナチスに対する抵抗を理解した上での、心通わせるメッセージだったと思う。
この言葉の持つ意味は重い。
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