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ワクワクリベンジ読書のすすめ~『戦争と平和 第三部第二篇』トルストイ著~

戦争モードに入った中で、登場人物の心の動きが興味深く感じる章だった。
敗北を目の当たりにしたナポレオンの独白、クトゥーゾフと彼を取り巻く将軍たちの言動など注目する場面は数々あったが、個人的には「ボルコンスキー家」にスポットライトを当ててみた。
最終的にアンドレイ公爵は敵の攻撃に倒れる。かなりの重症である。恐らくこのまま命を落とすのではと思われる。
そして老公爵は脳卒中を発症し、亡くなってしまう。特に老公爵が倒れてから亡くなるまでのマリアの心の葛藤がとても印象深い。
(引用はじめ)
彼女はしばしば快方に向かうきざしを見いだしたいという希望をもってではなく、終りに近づくきざしを見いだしたいと願いながら、病気の老父を見まもっていたのだった。(新潮文庫P254)
(引用終わり)
 
そして老公爵の束縛からの解放を願う気持ちはどんどん高まる。
そんなマリアの揺れる心。
(引用はじめ)
これから、「あれ」がすんだら、どのように自分の生活を組み立てようかという問題が、たえず彼女の頭の中に浮かぶのだった。これは悪魔の誘惑であったし、公爵令嬢マリアはそれを知っていた。「これ」に対抗するただひとつの方法は祈りであることを、彼女は知っていたので、祈ってみた。(引用終わり)
「あれ」と「これ」がマリアの気持ち、葛藤をあらわしている。
「あれ」とは建前的には「老公爵の葬儀」であり、本音では「束縛からの解放」なのだろう。
また「これ」は文章の流れからは「悪魔の誘惑」となると思うが、本質的には「『束縛からの解放』を願う自分の卑しい心」と読むべきと考える。
そうした自分自身の嫌悪感・罪悪感を悔い改めるために祈りがあるということなのだろう。
 
さらに感動的なのは、亡くなる前に老公爵がマリアを枕元に呼びよせて語る場面。
「いつも考えていた! おまえのことを・・・・・・考えていた」
「一晩じゅうおまえを呼んでいたんだよ・・・・・・」(各P259)
映画ではどういう演出になっているのだろうか。作品を読むだけでも目頭が熱くなるのだから、映画はきっと号泣モードになるだろう。

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