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高次脳機能障害『私』のマイクロツーリズム~「くもん」と「まさか」 『災害』編~

このコーナーは重度高次脳機能障害当事者(重い知的障害、ADL全般の障害、特に失語症で思うように意思表示できない)の家内(=「私」)の気持ちを、夫である私(=たまさん)が推測し、家内の視点に立ち家内の言葉で書いたものです。
家内のまわりで起こっている「ささやかなチャレンジをあらわすもの」として、「マイクロツーリズム」というタイトルをつけさせていただきました。
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おまえのケアは、「くもん」と「まさか」を考えるようにしている。

前回のレポートでもご案内した、たまさん(「私」のだんな)からのメッセージ。そして、前回は『女子会ケア』という「くもん」型アプローチというケアの方向性のひとつをご案内した。

今回は「まさか」について。
人生「山」あり「谷」あり。
「私」の場合は、12年前に受傷してから「谷」の連続かな。
もっともその下降傾向の中には、瞬間的に微妙な上昇気配はあったが。
個性心理学での「私」の生涯リズムによると、56歳から66歳まで一気に、しかも強烈に下降。受傷したのが52歳だから、おそらく下降のタイミングが数年早かったのかも。ただ66歳を機に今度は上昇局面に入る。
ちなみに、たまさんも56歳から66歳までトレンド低下。66歳で最悪となり、その後急上昇となっている。

個性心理学での「私」の生涯リズム

「私」たち夫婦にとって、「66歳」が鬼門、いわゆる大きな「まさか」が待ち構えているということ考える。そこは二人の共通認識だ。
正直、この年になっての「まさか」は、身体だけではなく精神的にもこたえる。でも、いつ何が起こるかわからない昨今、「想定されるリスクにどう対応するかの対策は考えておかなければならない」と、たまさんは語る。語る。語る。しつこいくらいに語る。

現在、我が家に想定される「まさか」の最有力は「災害、特に水害」だ。
すり鉢状の底辺に立地する、築45年の木造2階建ての我が家。
大雨が降るたびに、あちらこちらから水が家の前に押し寄せてくる。
悪いことに、この一帯は水はけが悪い。根本的な場所での排水機能に問題があるため、なかなかこちらでの小手先対策では改善しないようだ。
先日の集中豪雨でも、ひざ下まで水がきて、あわや床下浸水か、と。
もし線状降水帯となったら一発でアウト!

こんな時、障害者はどう動くべきか。
当然、当事者の状況や環境にもよる。「私」の場合は、自分で動けないのだからすべてたまさんにお任せになる。
テレビ報道では基本的な食料・水の確保とよく言われるが、「私」の場合、嚥下障害があるため、たまさんはウィダー・イン・ゼリーが安くなったタイミングでまとめ買いをしている。
また、失禁対策としての衛生用品は忘れてはならない。たまさん、先日のAmazonのスーパーセールで相当買い込んだようだ。
そしてなにより常備薬。一応、5日分は確保しているようだ。
それらを、画像のようにトートバックにまとめている。

問題はどこに避難するか。
特に、神経・精神障害当事者にとって避難所での生活は難しい。
数年前、みらクルTVで「災害と障害者」というテーマで一橋大学の中林先生との話し合いの中でも、当事者・家族からそういう声が多く上がった。
だから、「私」のような高次脳機能障害当事者・家族の場合、自宅避難やワンボックスカーなどでの避難することが多くなるように思う。
そういうことを前提に、普段から地域との関係性づくりを行い、万が一の時に孤立しないように、常に気にしていただけるようにすることが重要であると考える。そして緊急時には個人・家族からどういう形でSOSを発信するかなどを事前に地域の方々に伝えておくことも不可欠である。

だから、地域活動には可能な限り参加する。先日のような猛暑下での公園清掃はお休みしたが、地域行事には積極的に顔をだし、「あそこの家には重度の障害者がいる」ということをあえてアピールするようにしている。

以前、話題にしたかもしれないが、障害者のQOL実現をコンセプトとしたICF(国際生活機能分類)でいうところの「参加」や「活動」は当事者サポートを促進する意味合いもあると感じた。
賛否両論あるところであるが、もはや障害はディスクローズする時代になっているようにも考える。

「まさか」は災害だけではない。
もっといろいろあるだろう。多方面にわたって考えなければならない。
とは言っても、まずは健康で穏やかな日々を送れること。これに越したことはない。
「まさか」については、たまさんにしっかり考えていただき、「私」はそれに従っていきたい。
そう考えると、重度当事者を支える家族の役割はとても大きいものがあるのだな、と改めて実感した。
たまさん、お疲れさまです。


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