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落ちこぼれシニアのリベンジ読書~『雁』森鴎外著~

「お玉と岡田の淡いプラトニックな関係と、実は自身もお玉に好意を持っている僕」。
この関係が『雁』という作品のおもしろさだと感じた。厳密にこれを「三角関係」というかどうか疑問もあるが、「僕にとっての潜在的な三角関係」とするべきだろうか。
 
そんな中にあって、「僕」の存在は客観と主観が入り混じり、興味深いものがある。
当初は「僕」は物語の概況・背景を説明する「語り」役。
それがいつのまにか主観が入ってくる。明らかに登場人物のひとりとなり、岡田の友人として行動をともにする。岡田のお玉に対する思いを一見応援しながらも、実はお玉に対する好意を深める。当たり前のことかもしれないが、それを岡田には隠している。
それが、岡田の外遊後に、お玉と相識することになる。
そして最後にまた「語り」に戻る。
 
友人を絡めた男女の関係においては、こういう話はよくあることのように思う。
シチュエーションは異なるが、関係性という視点から考えると、武者小路実篤の『友情』にも似ている。
そして、語り役になった僕は、最後に、お玉との相識のいきさつやその後などは、すべて「物語の範囲外」としている。さらに「只僕にお玉の情人になる要約の備わっていぬことは論を須たぬから、読者は無用の憶測をせぬが好い」として作品を終わらせている。
 
そう言われたら余計に詮索したくなるのが人間の常。
(ここからは推測の話)
岡田外遊後、好機到来とばかりに、気軽にお玉に声をかける僕。そして、あの手この手で自分に興味を持ってもらえるように積極的にアプローチをかける。
しかし、お玉は奥ゆかしさをもつ女性。僕のようにグイグイくる男性は苦手。
結局、僕はフラれる。
「只僕にお玉の情人になる要約の備わっていぬことは論を須たぬ」とはそういうことなのだろう。
そんなにかっこうつけなくていいのにね。鴎外らしいということなのだろうか。
 
もっとも推測の域に過ぎない話だが。

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