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落ちこぼれシニアのリベンジ読書~『四苦八苦の哲学』永江朗著~

<<感想>>
恥ずかしながら、「四苦八苦」の成り立ちを知らなかった。
人生のあらゆる苦しみをあらわす仏教用語とのこと。
「四苦」は、生・老・病・死の四つの苦しみ。ベーシックな苦しみを意味する。それに、愛別離苦、怨憎会苦、求不得苦、五陰盛苦を加えたのが「八苦」である。
ただ「苦しみ」というと、やや疎遠な感じがする。「苦しみ」を「不安」に置き換えて考えたらどうか、というのが著者の提案である。なるほど、これなら身近な感じでわかりやすい。
 
「人生100年時代」とうたわれている今日、生老病死の中でも特に「老い」についての「不安」は尽きることはない。この不安をいかに克服するかが、これからの時代のポイントとなる。著書では、古今の思想家・哲学者の著作をもとに、「老い」についての不安解消の視点をあらわしている。
 
そもそも「老い」は古来よりネガティブな見方が強い。
古代ローマ時代では、老年が惨めな理由として、「老年は公の活動から遠ざける」「老年は肉体を弱くする」「老年はほとんどすべての快楽を奪う」「老年は死から遠く離れていない」とされていた。
これに対して、古代ローマの政治家であり思想家であるキケローはそれぞれに反論する。
中でも「肉体の力とか速さ、機敏さではなく、思慮・権威・見識で大事業は成し遂げられる」とした指摘は、「老人=ネガティブな存在」としていた当時としては異例のものだったと思われる。
 
現代になってからは、フランスの哲学者のボーボワールが、個々の肉体的能力の衰退をもって老化と呼ぶことを否定している。老化による機能の衰退は他の能力によって補うことができるとしている。衰える視力も記憶力も、経験や知識によってカバーできる。
さらに言えば、現代社会では、なによりも優れた判断力が重要となっている。
この判断力を形成するひとつが「パターン認識力」である。まったく初めての事例にあっても、過去に経験した類似の事例の記憶から推測して効率よく認識する能力のことである。『老いて賢くなる脳』(ゴールドバーグ著)によると、加齢とともにパターン認識力は増す、とも言われている。
 
もはや「老い」は死に近い状態を意味するものではない。豊富な経験やアクティブな視点、機能低下を補う技術次第で、w不安なく社会生活を送ることができる。他の「苦(不安)」も同じだろう。
その意味で、「四苦八苦」とは不安解消のための可能性追求の哲学なのかもしれない。

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