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落ちこぼれシニアのリベンジ読書~『老年について』キケロー著 中務哲郎訳~

<<感想>>
現存するギリシア・ラテン文献の中では、老年を謳い上げた最初の著書とのこと。
古代ローマ時代の政治家・文人の大カトーが文武に秀でた若者二人に対して語るという形をとって、キケローとしての老い・死・生について主張をまとめたものである。
 
基本的には、「老人が惨めなものと思われる4つの理由」(①老年は公の活動を遠ざける ②老年は肉体を弱くする ③老年はほとんどすべての快楽を奪い去る ④老年は死から遠く離れていない)に対する反論であり、異なる視点から老年の正統性を伝える形で話は進むが、その中でも、若者に対する数々の深く熱いメッセージは実に印象的である。
例えば、「次の世代に役立つようにと木を植える」(新喜劇の名手スターティウスの名言)。
植物の比喩を通じて、老年は常に次世代のことを考えながら行動しているというメッセージである。同時代の哲学者のセネカも「老人として、他人のためにオリーブ園を植えぬ者はいない」(『道徳書簡』)と伝えているなど、類似の事例はいろいろな著書で数多く残っている。
こうした「若者へのメッセージ」はこの著書の大きなテーマであるとともに、魂の永生不死をあらわしているものと考える。つまり、肉体は滅んでも魂(心)は死んでいない。「④老年は死から遠く離れていない」という指摘を否定するものであるともいえる。
 
一方で、老年の衰えは青年期に形成されるとも語っている。
「放蕩無頼の節度なき青年期は、弱り切った肉体を老年期へ送り渡す」と。
「体力の衰えは、老年期のというより青年期の悪習の結果」として、青年に戒めを送ってもいる。
 
また、老年の心構えについても多々述べているが、
「老年を守る最もふさわしい武器は諸々の徳を身につけ、実践すること」
「毎日何かを学び加えつつ老いていく」
「熱意と勤勉が持続さえすれば、老人にも知力はとどまる」
などは、特に心に残るメッセージである。
「徳」「学び」「熱意と勤勉」か。
このメッセージは「老年」を間近に迎えた自分に対する応援歌としてとらえたい。
なかなか高いハードルではあるが、「惨めな老人」と指摘されることのないようにしなければならないと、改めて強く感じた次第である。

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