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FIP闘病記3 診断に疑いを抱いた日

かかりつけ医から腫瘤があると告げられたとき、脳裏をよぎったのは、母の初盆法要の日のことでした。

その日、わたしは法要を欠席し東京にいました。愛猫の検診日だったからです。
当初、法要に出席するために別の日を希望したのですが、超音波検査が得意なドクターが来るため、可能なら調整してもらいたい、お墨付きをもらうと安心だから、という団体の代表の言葉に法要を欠席することにしたのでした。帰りの道すがら夫と、超音波検査が得意なドクターなんて言うと、いつもの先生が不得意みたいな意味にとれるよねえ、と笑ったことを覚えています。

そうして指折り数えて迎えた検診日でしたが、肝心の超音波が得意な先生は都合でこれなくなったとのことで、検診はA先生でした。
いつものごとくプローブをお腹にあてたA先生の診断によると、前回1センチまで小さくなった腫瘤がついに見えないほど小さくなっているとのことでした。
その次の検診でも、嘔吐はしているけれど腫瘤は見当たらないという診断に変わりはありませんでした。

それまで、かかりつけ医のドクターに腫瘤があることを指摘されるまで、一瞬たりともCFNを疑ったことはありませんでした。それは、確実に腫瘤が小さくなり、ついに超音波では確認できないほど小さくなったからです。
ここで初めて疑いが生じました。

薬は本当に効いているのか? 
それどころか、FIPという診断に間違いはないのか?
FIPによるものなのか、違う要因があるのか。
愛猫を救うためには、腫瘤の要因を見つけなければいけないと思いました。
かかりつけ医からも、開腹し組織検査することを勧められました。

2日後、愛猫と共に診療所にいました。
この日、A先生に検査してもらえば、一度は見えないほど小さくなった腫瘤が再び急成長したのか、見落としていたのかが分かると思っていました。それが、今後の治療の大きなヒントになると信じていました。
しかし、先生の言葉は耳を疑うものでした。

2日前に超音波検査したから、今日はしなくていいですね。

その日は検査をしないというのです。
その後で次のような話がありました。
前回の検診日にとったタンパク分画検査の結果から、腫瘤はFIP起因である可能性が極めて高い。そのため、腫瘤が消え、炎症数値が通常値になるまで投薬を続ける必要がある。それが、どれくらいの期間におよぶか、短くてすむのか長期に及ぶかは現時点ではなんとも言えないとのことでした。
そう説明を受けたものの、薬を増量し投与し投薬を続けたところで、腫瘤が小さくなることはない。なぜだかわたしは、そんな確信を持っていました。
現に薬を増量したにもかかわらず嘔吐は続いているのです。
薬が効いてない可能性はありませんか? 本当にFIPなんでしょうか?

問いかけるより早く、夫がキレた。
これ以上、猫にお金をかけられません!
隣に座っていた味方に、突然、横っ腹を打たれた気がしました。
夫は、続けました。
すでに治療費に100万以上かかっている。それなのに消えたはずの腫瘤は相変わらずの大きさで見つかった。だというのに薬を増量して治療を続けなければいけない。しかも、治療が10日で終わるか、30日で終わるか、それ以上かわからないだなんて、ありえない。これ以上は、無理です。

後で夫に確認したところ、消えた腫瘤が見つかったことをはっきりさせないまま、増量だ投薬続行だと言うのはおかしいと指摘したかったということでしたが、実際の発言からそんな意図が読み取れるわけもなく。
夫の発言により、問題は、治療費が払えないことにすり替わってしまった気がしました。

わたしが話し合いたかったのは、愛猫をどうしたら救えるか?でした。
現に、愛猫のお腹の中、先生が消えたと診断していた腫瘤が、3センチもの大きさで存在しているのです。7日間で、3センチにも育つものなのか? 腫瘤を見逃していたのではないか? 効いていたのはCFNではなく、プレドニゾロンでだったのではないか? 
そもそも愛猫は本当にFIPなのか? 

どう切り出していいものか、言葉を探している間に先生は、“治療費を払えない飼い主”となったわたしたちに、「誤解しないでいただきたいのですが」という前置きをつけて、愛猫を団体に返すことも選択肢のひとつとして考えてみては、と提案をしました。寛解するまで、出来うる限りの治療を施します。寛解するまで最大量の薬を飲ませますと。

腫瘤はCFNで治るのですか?
すべてが空回りしている気がしました。

「超音波検査をお願いできませんか」

やっと絞り出したそのひと言に、A先生は「いいですよ」と事もなげに答えました。そうして、見学に来ていた若いドクターを呼びつけ、彼に検査をするよう命じたのでした。

それが、答えだと思いました。
先生に対する信用が一気に崩れた瞬間でした。
見つけにくいところにありますねと、言いながら、命じられた若いドクターは腫瘤を探りあてました。
モニターには3センチ大の影、A先生のいう、FIP起因の腫瘤が写っていました。

ボールは、“治療を続けられない”飼い主であるわたしたちにありました。
少し時間をください。夫婦で話し合ってきますと告げて、わたしたちは話し合いのため駐車場に行きました。

84日まであと1週間を残すところまで来ていました。淡白分画の結果が腫瘤がFIP起因であると示している以上、あと1週間のタイミングで治療をやめては、これまでの投薬での愛猫の辛い思いも、治療費もドブに捨てることになると思いました。

少なくとも84日までは、治療を続けたい。その上で腫瘤の要因を調べて、別の病気であるならその治療に取り組みたい。もちろん治療費はわたしが出す。夫にそう伝えました。

わたしが自分の経済状態を把握しないまま感情に流され、どんな治療でも受けさせます!状態になっている。感情的になっていて状況を把握できていない。上限を決めなければ、治療費は青天井で膨れ上がっていくと夫。

そこで、そもそも愛猫を引き取った時点で、高額な治療費が必要になる場合もあることは覚悟していたこと、ざっくりだけれどもお金の算段もしていると伝えたところ、わたしが治療費を払っていけると示せる経済プランを作成して見せてほしいと言う。

結果、治療費をどう捻出するか分かる経済プランを作成することを前提に、今後の治療費の一切をわたしが負担することで治療を継続することになったのです。

結果、投薬は、次の検診日まで続けることになり、診療所の営業日の都合で84日の投薬期間は2日延びることになりました。
増量するはずの薬は、1/2錠分、減薬されていました。

帰りの車中は、お互い押し黙ったままでした。わたしたちがこんな様では愛猫が元気になれないと思いながら、車中に漂う重い空気をどうすることもできないまま疲れ果てて帰途についたのでした。

この後、エクセル嫌いなので水彩で描いた、一見ライフプランには見えない代物を作成しましたが作成して良かったと思います。わたしにとって必要な作業でし。
果たして、FIPの治療にどれだけ必要だったか、それはまた別のお話。

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