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お岩さんの祟り、だったかもしれない話

独身時代のお正月は、九州の実家で過ごすのが常でした。
楽しみは読書。毎年、大晦日から新年にかけて、年をまたいで本を読むのです。暮れが近づくとともに、何を読もうかと、吟味に吟味を重ねた末、これぞ!と選び抜いた一冊を手に帰省するのが年中行事になっていました。

その年は、歌舞伎に凝っていたこともあり、四代目鶴屋南北の作品を読もうとまでは決めていました。
が、果たしてどの作品にしたものか? 書店で決めようと行った行きつけの本屋で迷わず手が伸びたのが「東海道四谷怪談」。持ち歩きするには重たい一冊を購入して機上の人となったわけでありました。

黙読するより声に出して読んだ方が断然、面白いのが鶴屋南北です。
ということで、その年の大晦日は、四谷怪談を大声で朗読しながら新しい年を迎えたのでした。
いつの間にやら床につき、翌元旦、居間におりたところ母に驚かれました。

その顔、どうしたん?

慌てて鏡を見たところ、左右どちらか忘れましたが、目の上がひどく腫れている。それも尋常じゃなく腫れ上がっている。
病院に行こうにも元旦とあってどこもしまっている。幸い、腫れてはいるものの痛くも痒くもないため経過をみることにしたところ、翌日には嘘のように跡形もなく治ったのでした。

正月休みも終わり、東京に戻り日常生活を送っていたある週末のこと。
実家から荷物が届きました。野菜やお菓子と一緒に、重たいから送ってくれと頼んでいた「東海道四谷怪談」も中に入っていました。
この時まで元日に目が腫れたことなどすっかり忘れてしまっていたのですが、本を手にした瞬間、頭の中、目が腫れたこととお岩さんが結びついた。

ああ、そういうことでしたか。

すとんと腑に落ちたのでありました。
四谷怪談を朗読した翌日、たまさか目が腫れただけのことやもしれませんが、偶然にしてもひどく不思議な偶然があるものです。

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