土鍋プリンは12月の足あと
ちいさな影
陶芸道において路頭に迷ったり、逆走したり。たくさんのものは手に入らない。けれども、ちいさな影に救われることもあるでしょう。
石畳にうつる影
イタリア弟子時代をおもいだせばシャキンとする。
幾度目かの渡航で、帰りのチケットを放棄し、以降ヴィザも切れて、隣国に出国してまた帰国した。帰りのエアチケットすら危い毎日だった。
モバイルフォンもインターネットもない。イタリアにすてきな街はたくさんあるし、欧州は地続きなのに、明日を暮らすのにせいいっぱいで、旅にも出られず、クリスマスも新年も、教会の裏の寒いアパートで過ごした。覚えてしまうほどくりかえし聴こえる賛美歌をひとり口ずさみ、窓を開けてミサに向かう人々やパーティに向かう人々を上から眺め、一斉に鳴り響く街中の鐘の音を目をつむって聴いた。粘土をこねたりバーナーでとんぼ玉をつくったり、絵を描くかペンで言葉を書いて「ペルフェット!」(カンペキ!)とつぶやくんだから、かなり愉快だ。
赤くて重いコートのボタンをしっかりしめ、川沿いを散歩して大きなネズミを探した。帰国してからの作品には、可能な限り「足あと」と「根っこ」を線刻している。
12月のプリンの味
イタリア暮らしのキッチンにオーブンはなかった。ひとりで過ごすクリスマスにパネットーネやトルタは似合わなくて。年末の市場でいつものタマゴと牛乳を買って、鍋でプリンをつくってデコレーションした。
あの味は、12月のわたしの足あと。
土鍋職人のなんちゃってレシピ
「土鍋プリン」(土鍋コッチョリーノ3合)
①タマゴを泡立て器で静かに溶く。(決して泡立てず黄身をほぐし特に白身をつぶす感じ)
②牛乳に砂糖を入れて溶かすように混ぜ①に加える。
②バニラビーンズを開いて中身を①に入れる。(またはバニラエッセンス)
③土鍋にプリン液を濾しながら流す。(茶こしなど通して白身や黄身玉をつぶす)
④弱火で加熱。ゴムべらで静かに鍋底をなでるように混ぜつづける。
⑤ふくふく重くなってきたらそろそろ。ここから2〜3分もう少し静かに混ぜる。(プリン液の温度75-80℃)
⑥ 火を消してフタして余熱で蒸らす。
⑦ 粗熱が取れたら冷蔵庫へ。
※お好みでホイップクリームでデコレーション。
2016年コッチョリーノ ブログより改正レシピ
あとがきコッチョリーノ
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