見出し画像

青く途立つ(みちたつ)

永遠につづく旅はない。人の命にも、親子の関係にも永遠はない。

風まで青い夏、もうすぐ成人になる息子と大型難民船をヴェネツィアの運河で見ていた。リビアの青年はなにを思っていたのか。

ふたり旅ではイライラしても怒らない、親という立場を捨て、そこにいるのは「ある青年」と思おうと心に誓っていたのに。ついさっき、こんなに青い空の下、ぐっと抑えながらも声を荒げた。展示会場で「もう知らないから」と、別々の方向に散った。プリプリしながらビエンナーレのパビリオンを回る。

幼子をこういうセリフで見放せば、虐待と言われるだろうが、告白しよう。道端で、何回このセリフを言って「まってまって」を期待しただろう。

彼は背中を向け、サクサクと運河を渡り行ってしまった。1時間しても電話が鳴ることもなく、こちらからの電話にも応対しない。方向を失いグルグル地図を回しながらさまよっていると、むこうにまっすぐ歩く黒髪の青年がいた。


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?