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読書感想文 『雲を紡ぐ』伊吹有喜著

【あらすじ】   
 中学校の教師の母と、家電メーカーの技術者の父をもつ高校2年生の美緒はいじめを受け不登校となり、父方の祖母が負ったホームスパンの赤いショールをかぶって引きこもっている。しかし母が「子育てに失敗した教師」とネットで追い込まれているのを知り学校に行くことにする。しかしその間に大切なショールを片付けられていたと知り、美緒は衝動的に父方の祖父がいる岩手へと家出をする。そこでホームスパンに触れ、自ら織ってみたいと職人に弟子入りをする。美緒は家に戻し学校に通わせたい両親から、ゆっくりと自分を知ることを待ってくれる祖父に守られ、自分を探り自分の進みたい道を見つけていく。第163回直木賞候補作(受賞は馳星周『少年と犬』)


 辛いことから逃げていいものか。辛い状況にいる人間が考えるのは、今逃げたらこのまま一生「逃げ癖」がつくのではないか、ということだ。その問に一つの答えを提示してくれる小説。主人公の美緒だけでなく、美緒の両親も仕事も家庭も辛い状況にあり窒息しそうになっている。そんな三人を救ってくれるのは、辛い思いをした人を失った祖父と、逃げずに立ち向かった美緒のハトコの太一だ。
この太一がいいタイミングでみんなを助けてくれる。そして、親?この漢字、間にも読んだような…と思ったら『四十九日のレシピ』の作者だった。もう一度読みたいと思っていたあの話を上回る話だった。
また、この作品に出てくる母と娘はみんなこじれている。そんなところも私の心を鷲掴みにする。


辛いことから逃げ、心に栄養を与え体を休め、そしてまた歩き出す、という話はたくさんあり、私はそうゆう話が好きだが、この小説はもっと深い。ただ癒されて歩き出すだけでなく、もし自分が追い込まれた時に助けてくれる言葉が溢れている。今、苦しい思いをしている人にぜひとも進めたい一冊だ。
直木賞を受賞しなかったのが残念でならないが、選考委員の三浦しをんと林真理子が評価していて嬉しかった。ま、候補になっているのだから評価はされているか。
となると、受賞作も一応読んでおかねばね。
#雲を紡ぐ #伊吹有喜 #読書感想文

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