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【百線一抄】017■神の在る海辺をいざ進めー鹿島臨海鉄道

長者ヶ浜潮騒はまなす公園前駅。字数13、音数22の長い駅名は
図らずも各地の話題作りに影響を与えた。後発の駅名が改称という
やり方で名前が伸びたり縮んだりしているのに対して、この駅は寸
分たがわず30年以上の間、ずっとこの名前でそこにあり続けてい
るという、いまもはやこの筋では老舗の風格すら感じさせている。

鹿島臨海鉄道大洗鹿島線は、鹿島臨海工業地域における物資輸送を
見込んで建設された貨物線が分岐して、太平洋沿岸と水戸市を結ぶ
ように計画された路線だった。国鉄再建の流れをうけて、この路線
も見直しの対象となったが、第三セクター会社の鹿島臨海鉄道が茨
城県の出資企業であったことから、運営主体として名乗りを上げ、
鹿嶋市と水戸市を結ぶ路線として開通した。開業当初は旅客に限ら
ず、臨海部を含めた全線で貨物輸送を展開していた時期もあった。

太平洋に並行して走るイメージがあるが、実際は数キロほど内陸を
つなぐかたちとなるため、海を眺めることができる区間は少ない。
ただ、建設目的の関係で線形はよいし、それなりに人口のある地域
が散在するため、区間によっては列車の本数も多い。新線開業当時
は中古車も混じっていたが、比較的早くに新車へ更新されている。

鹿島神宮から1駅の鹿島サッカースタジアムが会社境界駅。ここか
らが鹿島臨海鉄道の路線となる。沿線の鉾田市では鹿島鉄道が長ら
くつながっていたが、バス路線となった。路面電車が消えて、再び
列車で水戸市とつながるようになった大洗町では、新たな観光客の
流れとして、この地域を舞台としたアニメ作品に触れたファンが、
いわゆる「聖地巡礼」に数多く訪れるようになっている。このよう
に、地域を盛り上げるスポットが複数あるのも路線の魅力なのだ。

港の拡張とともに整備された貨物線が中心であって、地域との話題
づくりとは無縁であった臨海鉄道が、あらたな役割を担うことで多
くの来訪客や地域住民のあしとして活躍している。東日本大震災で
苦戦を強いられた時期もあるが、路線は数ヶ月で運行を再開してい
る。山手線内から100キロちょっと、列車で2時間と少しで、水
戸にも鹿島神宮にも到達できる。古きも新しきも味わえるこの地域
は、多彩な楽しみ方を味わえる路線でつながっているのであった。

それでは次回の投稿まで、ごきげんよう。

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