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【百線一抄】008■2つの古都を結ぶー奈良線

割と最近になって頭角を現してきたような印象を抱く路線がある。
該当する路線はいくつかあるだろうが、50年前、25年前の頃と
今の盛況を比べると、まあここまで変わるものかと驚くどころか、
誉め讃えたくなるほどの成長を遂げた路線となると、まさに奈良線
は、冒頭の例にふさわしい路線に挙げる価値があるといってよい。

磨かれる前の原石だった頃の奈良線は、二大古都を結ぶ路線として
やる気が見受けられない印象の路線であった。1日数本の急行列車
こそ走ってはいるものの、それ以外の普通列車は数も少なく、私鉄
の近鉄京都線の活況とはかけはなれた、まさしく異次元の雰囲気が
漂っていた。国鉄時代に電化こそされたものの、急行は消滅し、普
通も本数は増えたものの、首都圏のお下がりがのんびり走る光景は
見た目そのまま画に描いたような近郊ローカル線そのものだった。

しかし平成に入ってから奈良線は覚醒する。停車駅を大きく絞った
快速列車が京都で新幹線と接続して奈良直結をアピールし始めた。
続々と普通列車も本数を増やして、初期は数本が宇治までで折り返
すだけだった区間列車も城陽まで足を延ばすようになった。奈良へ
向かう通勤通学客も増え始め、朝夕にも快速が走るようになった。
 
余裕がなくなるほど列車の本数が増えてきた奈良線は、さらに変貌
を遂げる重要幹線となる。中間部の複線化や京都駅の発着線追加、
運転間隔を縮小するための線路施設の改良を順次進め、主要駅の宇
治や城陽にも手が入った。改良プロジェクトは佳境に入っており、
やがて路線の大半が複線化し、現在以上に便利になる予定である。
毎年多くの利用者が訪れる伏見稲荷の参拝客輸送も、年を重ねるご
とに充実し、近年では特別ダイヤが組まれるほどに成長してきた。

一つ興味深い話をしよう。冒頭で述べたとおり、この奈良線は京都
と木津を結ぶ路線なのだが、路線名称としての終点にあたる木津駅
は京都府に所在する。列車は自然に京都と奈良をつないでいるが、
意外なことに路線そのものは京都府内で完結しているのだ。それで
不都合があるわけではないのだが、並行している近鉄京都線が昔は
奈良電気鉄道だったり、大昔は東海道線の一部だった区間があった
りと、歴史に関する話題も数多い。なかなか由緒ある路線なのだ。

それでは次回の投稿まで、ごきげんよう。

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