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【百線一抄】021■大阿蘇の風に乗り再び立つー南阿蘇鉄道

いつの時代も自然の猛威は人々の暮らしをおびやかす。山の奥深く
まで人は分け入り、道なき道を切り開いてきたところに突如として
拳を振り下ろす。山は憤り、川は暴れ、大地は揺れる。時として、
無慈悲な自然の咆哮は平穏な日常を激しくえぐる。呆然とさせる。
土地を離れなくてはならない人や家族も多く出てくるのが現実だ。

いま、自然災害によって孤立しながらも、再起を期し、着実にその
日に向けて前進するローカル線がある。世界最大級のカルデラを擁
し、火の国肥後の代名詞ともいえる阿蘇山麓を走る南阿蘇鉄道。看
板列車ともいえるトロッコ列車「ゆうすげ号」とともに、一部の区
間での営業を続けている。路線の半分以上、しかも他線とのつなが
りが断たれた状態が続く中で、国や県、全国各地の有志からの支援
により全区間の復旧が決まり、数年後の全線開通をめざしている。

長年の間、構想としてはさらに東進して高千穂へ抜け、延岡へつな
がる計画であった。宮崎県側の高千穂線は戦前から段階的に延伸を
続けてきたものの、工事区間のトラブルや国鉄再建法の成立で力尽
きた。JRになるまでに高森線が南阿蘇鉄道に、平成になってすぐ
の転換によって高千穂線が高千穂鉄道となり、新たに歩み始めた。

阿蘇くじゅう国立公園の西側の入口となるような場所に立野駅があ
り、ここから高森線は豊肥本線が進んできた方向そのままに峡谷へ
足を踏み入れる。現在は不通となっている第一白川橋梁は橋上での
景色がとても素晴らしく、始発駅を出てすぐに拡がる絶景に観光客
の歓声があちこちで上がる名所である。接続する豊肥本線は立野に
着くと上下列車ともここで必ず停車し、南阿蘇鉄道の進路とは逆向
きに進んでいく。このスイッチバックも有名だが、白川橋梁の風景
を名所として推す声も、負けず劣らずなかなか根強いものがある。

周りを小高い山並みに囲まれた、カルデラの内側ならではの光景が
地域の独自色を醸している。牧歌的な田園風景の中に現れる駅舎の
いでたちは、国鉄時代からのものもあれば、無人駅ながら一部の駅
ではカフェや温泉などが併設されているところもあるため、都合が
つくなら外からも眺めてみたいところだ。テレビCMの舞台にもな
るぐらい、絵になる場所も沢山ある。確かに線路は繋がっていない
かもしれないが、地域の足として、観光名所として、再び多くの旅
仲間を立野から招き入れるべく、南阿蘇鉄道は今日も走っている。

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