見出し画像

交通費のものさし(運賃と料金編)

前回に続き「交通費のものさし」について、電車やバスを利用するときに
活かせる話題に触れていきます。
今回は「運賃・料金」の捉え方について述べます。

いわゆる「きっぷのおねだん」は大別すると、
ある場所からある場所へ移動するための対価として支払う「運賃」と、
利用する施設や設備、附帯サービスに対して支払う「料金」の
2種類に分けることができます。
大部分の路線では「運賃」のみを支払えば、
移動手段としてのサービスを受けることができるのですが、
一部の区間では、その路線の歴史的経緯によって
止むなく「料金」も支払わざるを得ないところもあります。

いずれにせよ、支払わないといけない運賃・料金を
少しでも合理的に捉えるために、少し複雑な話もしますが
考えるきっかけになればよいかと思います。

まず、運賃は基本的に「初乗り運賃」とそれ以外の運賃に分けて捉えます。
そして、この2つは概ね距離(営業キロや運賃計算キロなど)を
もとに設定されており、その加算割合は会社だけでなく、
路線ごとでも異なる場合があります。
さらに一部の会社には「加算運賃」というものもありますが、
ここでは割愛します。

「初乗り運賃」は、その会社の路線を利用する場合に
必ず負担することになるもので、これを基にして数十円を目安として
距離が伸びるごとに加算していき、距離が長くなればなるほど、
距離あたりの金額が少なくなるように設定されていることが多いです。
そして、歴史の長い路線であればあるほど、
路線の端から端まで利用する人が多い路線であればあるほど、
「初乗り運賃」は安く抑えられる傾向があります。

一方で、距離が伸びるごとに加算される金額の幅は路線によって
大きな違いがあります。その違いは大雑把に見て3種類に分けられます。

1つはJRや東武、近鉄のように路線の距離が長く、かつターミナルから離れていくごとに利用客が減っていく傾向にある路線です。
こういった路線の運賃は、ある程度の距離まで進むと、ほぼ一定の割合で金額が上がり続けるのですが、かなりの長距離になってくると金額の上がり幅は変わらないものの、金額の上がり幅に対してあてはまる距離の長さが大きくなる傾向があります。
例えば、51kmから200kmまでは5kmや10kmごとに100円上がるのに対して、201kmを超えると20kmごとに100円上がるといった感じです。
JRではこの特性を利用することによって、とても長い一筆書きとなるような乗車券を買い求めることで旅費を抑えることができる場合があります。

もう1つは各地の地下鉄や歴史の浅い路線のように、「初乗り運賃」が高めであるのに対して、運賃の上がり幅が小さめに抑えられているものです。
地下鉄の運賃表を見ると、隣の駅までは200円以上するのに、
端から端まで乗っても400円未満で収まるところが多いというのが、
分かり易い例かと思います。

そして大都市で見られるものとして、端から端までの運賃と比較すると、
中間あたりの駅まで運賃と実はほとんど変わらない傾向の路線もあります。
京阪神を結ぶ阪急・阪神・京阪はいずれもこの傾向があります。
冒頭の例と比較するとわかりやすいので、
大阪梅田―西宮(西宮北口)―神戸三宮間で示してみます。
ちなみにどの路線を利用しても大阪梅田―西宮・西宮北口、
西宮・西宮北口―神戸三宮の距離は15km前後です。

(単位:円)大阪梅田―三宮  大阪梅田―西宮  西宮―三宮
阪急      310      270     270
JR    410※(560)  310     310
阪神      320      270     270
※JRの410円は特定運賃。
 本来の運賃(通常の計算方式によるもの)は560円かかる。

このように、通しで利用する場合と比べて、どこか途中で降りた場合の運賃にさほど違いが見られない路線もあるということを示しています。

同じような比較を池袋-川越・本川越を結ぶJR・東武・西武で示してみます。途中の経由地は3路線とも大きく異なり、西武は所沢で乗り換える上に距離が少し延びますが、この3社は偶然にも1つ目の傾向、つまり一定の割合で金額が上がる傾向を示す特徴を持つという意味でも揃っているので取り上げました。

経由地はJRを大宮で(池袋―川越間を22.6kmと16.1kmに分ける)、
東武を志木で(池袋―川越間を17.8kmと12.7kmに分ける)、
西武を所沢で(池袋―川越間を24.8kmと18.6kmに分ける)
分けることにします。

(単位:円)池袋―川越  池袋―大宮・志木・所沢  大宮・志木・所沢―川越
JR    680       400         330
東武    480       320         260
西武    480       350         280
※首都圏ではICカードによる運賃が設定されているが、
 ここでは紙のきっぷを利用した場合の運賃で算出。

こちらの3路線の場合は、それなりの距離に見合った運賃に
なっていることがわかるかと思います。
このように、運賃一つを見ても会社や路線の違いがあるということを
どう活かすか。

前回取り上げた「回数券と定期券の比較」がここでものを言います。
定期券は概ね1km刻みで運賃が変わる会社がほとんどではあるものの、
私鉄や地下鉄の場合は区間を短く切るよりも長い区間のものを買う方が、
使い勝手が大きく変わります。
阪神や西武では、定期券だけに見られるサービスとして、2種類の区間を
相互利用できる(途中駅からの利用には制限がある)ものもあります。
購入する区間を数駅延ばすだけで、応用できる幅が広がるところが
身近なところにあるかもしれません。

一方で「料金」については、必要があって支払う料金とはいえど、
「何のために支払う料金か」を仕分けてみることで、
その値打ちをはかることができるかと思います。
その視点は3つ。

<速さ・早さのために支払う>
新幹線の特急料金はこの側面が明らかに大きいです。
もちろん乗車距離が長くなればなるほど、
その費用的効果は絶大なものになるはずです。

<設備を利用するために支払う>
グリーン料金や寝台料金はこの側面によるものが中心となります。
一般に1人で占有できる面積・空間体積がどれだけ大きくなるかで
料金が決まる傾向があります。
最近、東海道・山陽・九州新幹線で登場した「特大荷物スペース付き座席」は、予約そのものの料金は無料であるものの、
荷物置場をチャージするという意味でこの分類に入れてもよいと思います。

<その移動手段でないと味わえない快適さのために支払う>
「ななつ星」「四季島」や「トワイライトエクスプレス瑞風」といった
特別車両に乗ることを主とした旅行商品を利用する場合や、
食事やお酒などを味わいながらローカル線の風景を楽しむ場合には、
飲食費とは別に、それなりの料金を支払うようになっているものが
多いです。
東北新幹線や北陸新幹線などに連結されている「グランクラス」の場合、
アテンダントが添乗して乗客に様々なサービスが提供される列車の場合は、
こちらの意味合いが強くなります。

もちろん、これだけでははかり得ない価値観もあるかと思いますが、
「その料金が高いか安いか」を判断する基準を明らかにしようとすると、
このようなかたちに落ち着くと考えた次第です。
詳細はかなり複雑になるので、別の機会に譲ります。

次回は「経路探索アプリ」について触れてみたいと思います。
では次回の投稿まで、ごきげんよう。

2020-06-12(fri)/たまなび倶楽部主宰

サポートをお願いいたします。いただいたサポートはたまなび倶楽部の運営費として活用いたします。