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【百線一抄】029■花鳥風月を愉しむ湿原の細道―釧網本線

湖畔と海辺を走る印象が強い釧網本線。実際に乗ると濤沸湖、塘路
湖は車窓から確認できる箇所があり、別の地形にさえぎられるとこ
ろだと屈斜路湖や摩周湖、達古武湖などが近接している。東釧路と
網走を結ぶ約150キロの沿線では、果てなく広がる釧路湿原を経
てカルデラ湖の屈斜路湖と摩周湖が居を構え、平地に下りると東側
にて斜里岳がお出迎え。あとは車窓右側にオホーツクが横たわる。

生い立ちを振り返る。池田から網走へ延びてきた線路は大正末期か
ら延伸が進み、昭和初期に摩周湖手前に到達。釧路側へ目を向けれ
ば昭和に入ってから順調に歩を進め、1931年には両線が接続。
やがて釧網本線と改称して、道東北部エリアの主要路線という地位
を手に入れる。標津線や根北線、村営軌道などが沿線の主要な駅か
ら延びていたが、比較的早期から役目を終え、姿を消した。大半が
無人駅となった本体の釧網本線自身すら、存続が危ぶまれている。

華やかな時代もあった。何本もの準急や急行列車が線内を走り、か
つては網走を経由して札幌や小樽とを結ぶ列車も運行されていた。
昭和末期に向かうとともに優等列車は数を減らしていき、それとと
もに合理化も進められていった。国鉄最後のダイヤ改正時には急行
の姿が完全に消え、普通列車のみの路線の1つになってしまった。

折しも好景気の時期にJRへの移管を迎えた釧網本線では、自然環
境の豊富さを活かして臨時駅の追加や、あえてゆっくり走りながら
周りの風景を満喫できるノロッコ号、SL列車の冬の湿原号などが
道東観光の目玉として毎年運行されるようになった。殊に厳冬期に
は丹頂鶴の飛来やつがいが群れる光景に出会える期待があり、果た
せると列車内の各所で歓声が上がる。これらのような観光列車が走
る景勝地では、列車を絡めた写真を撮りに訪れる人も多いという。

四季折々の雄大な風景をほぼ全線にわたり愉しめる釧網本線。実際
楽観を許さない現況にありながらも、現地では路線全体で地域が協
議して観光列車の運行に参画したり、駅施設などの有効活用に取り
組んだりする動きが出てきた。世界自然遺産に登録された知床半島
の魅力の一つであるオホーツク海の流氷は、温暖化が進む現代でも
幅広い地域や世代の観光客を魅了する。道東の奥深くへ旅人をいざ
なう釧網本線は、沿線自治体の存在価値をも運ぶ重要路線なのだ。

それでは次回の投稿まで、ごきげんよう。

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