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【百線一抄】035■ふるさとの菜の花を捜しにーいすみ鉄道

ひまわり、たんぽぽ、菊の花など、黄色の花が風景を彩る名勝地は
ところどころにあるが、黄色の花と黄色の列車の組合せが有名なの
は、房総半島を走る第三セクター路線のいすみ鉄道をおいて他にな
いだろう。春の訪れとともに花開く菜の花と黄色い気動車を沿線で
撮影する光景は、首都圏近郊の観光イメージとして根付いてきた。

小湊鉄道の終着駅である上総中野と外房線大原を結ぶいすみ鉄道は
国鉄木原線をJR化後およそ1年で引き継いだ。木更津-大原間の
路線として建設がすすめられた木原線は、昭和初期の開業以来、貨
物も含めて輸送量は多くはなく、小型車両の導入による増発などの
手段を講じるも成果は上がらなかった。1次特定地方交通線に加え
られたのは必然だったといえるが、地元の存続にかける熱意は衰え
ず、昭和末期に第三セクター路線として再出発することになった。

振るわない経営状態にテコ入れを図るようになった頃から、活かせ
るものに活力を注ぐ大胆な施策が繰り広げられるようになる。まず
採用したのは有名なキャラクターとのコラボやイベントだったが、
富山や北陸で活躍していた旧型の気動車を譲受したり、新型車両に
はあえて旧国鉄時代の色を塗装したものを登場させたりしている。

発信の仕方も独特だ。社長自らのブログ投稿やマスメディアとのつ
ながりを活かして取り組みをアピールする。列車に乗せることを存
続の唯一のカギと留め置かず、列車が走ることによって人を当地に
向かわせることができるという流れを粘り強く体現していった。な
かには列車には一切乗らず、クルマで沿線までやってきて列車の写
真を撮るだけという人々もいるようだが、まずはそれだけでも路線
の存在意義があることを、より多くの人々へ広めることができた。

上総中野では接続する小湊鉄道との乗り換えが長くても15分ほど
に設定されている。両線では房総横断乗車券も発売しており、一気
に乗り進むことも可能だ。ただ、時間に余裕があるのであれば、徒
歩で一駅間を散策してみるのもいいだろう。往路は昭和テイストの
非日常をレストラン列車で満喫し、復路は散策と風景撮影で街中探
見に出よう。通勤電車で見かけたあのポスターの風景が、そこにあ
るかもしれない。菜の花に限らない当地の魅力がそこにあるのだ。

それでは次回の投稿まで、ごきげんよう。

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