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「昔ばなしがきこえるよ」ワークショップ@東京都美術館 2日目

2022年8月24日(水)

1週間ぶりにまた子供達が集まってきてくれました。

2日目から参加してくれたのは、ウクライナ人の11歳のM君と13歳のTさんでした。同じくウクライナ人のBさんは大人の女性でしたが、本国で美術教育の仕事をしていたので興味をお持ちであると言う事で参加していただきました。

”不思議な生き物”は美術館のどこにいる?


2日目から参加しても楽しめるようにと、2日目は急遽アクティビティを一つ増やしました。美術館のある“上野の昔ばなし“。私が上野の昔から今につながるお話をしました。「上野には不思議な生き物が住んでいる。大体96年前にできた東京都美術館にもいます。美術館は気持ちが良いので、ずっと住んでいるみたいです。どこに住んでいるのかな?探して、写真を撮ってきてください!」

私が描いた不思議な生き物達には目が無かったので、子供達に目のシールを貼ってもらいました。

そして、とびラーさん達と子供達は、iPadと不思議な生き物のカードを持って、館内と野外彫刻のある前庭の探検に出かけました。

30分くらいして、みんなが帰ってきました。グループごとに、自分が撮ってきた写真を見せ合いました。美術館の隅っこで、植え込みの中で、作品の下で、不思議な生き物たちがどんなことをしていたのか、お話しました。館内を探検することは結果的に、その後の座って話を聞くアクティビティとの違いがでたのでよかったです。

次は、みんなが持ち寄った昔ばなしの紹介です。

1日目に作ったテント用の紙は、1週間で乾かし、テントに組み上がっている予定でした。…が!予想よりも分厚くできたこと、日本の湿気がハンパでは無かった事など、私の計画ミスで、結局は乾かすことができませんでした。バルコニーに出してもらったり、色々と努力してみたのですが。子供達には、まだ湿っている紙をみてもらい、乾かせずテントにできなかった事を謝りました。そういう経緯で、昔ばなしの紹介は、紙製ではなくシナベニヤの蝶々の形をしたテントの中でおこないました。

テントに電球を一つ灯し、部屋のあかりは暗めにしました。みんなテントを囲んで床に座り、昔ばなしを聞く親密な空間が出来上がりました。一人づつテントの中に座り、持ってきた絵本や、スマホを見ながら昔話の紹介をしました。全文読み聞かせてくれたり、登場人物やあらすじ、誰から聞いたのか、どうして好きなのか、などを発表しました。

ウクライナから参加の11歳のM君は、「狐とつる」と言うウクライナの絵本を用意してくれました。なんと日本語で読んでくれました!山藤先生の助けを借りて、ウクライナ語〜英語〜日本語(ローマ字)に訳し、読む練習をしてきてくれたのです。

「手ぶくろ」


そして13歳のTさんが選んだのは、日本でも有名なウクライナの昔話の「手ぶくろ」。Tさんがウクライナ語で読んだ後に、M君が「手ぶくろ」も日本語で読みました。ワークショップ前にTさんのお母様に、日本語版の「手ぶくろ」の絵本を見せた時の、嬉しそうなお顔が印象的でした。すぐに娘さんに見せていました。Tさんが「手ぶくろ」を選んだ理由は、動物たちが手ぶくろに仲間を入れてあげるように、日本が私たちを受け入れてくれたから…という話をお母様がしていたそうです。「手ぶくろ」は、私も子供の時からお話も絵も大好きな絵本です。それを今回、ウクライナ語で聞けて、さらに一生懸命に話す日本語で聞く事になるとは想像もしていなかったので、聞いていて胸がいっぱいになりました。

ローマ字で読んだとはいえ、慣れない日本語で1冊のお話しを、日本人の前で発表しようというM君の心意気がすごいなと思いました。今、彼らが日本にいるのは、戦争から避難するという理由で、そんな事は起きずに自分の国で幸せに暮らしていた方がいいに決まっていますが…何かの縁で日本に滞在したことが、彼らの人生に良い意味を持ってくれるといいなと願います。他のこどもたちも、1日だけワークショップの場を共にしただけですが、1人でもウクライナの子どもに実際に会ったという経験は、この先にニュースを見る時の気持ちも変わってくるのでは無いかと思います。

台東区が貸し出してくれた“ポケトーク”というAI通訳機が、かなり有用でした。進行ではなるべく「やさしい日本語」を使い、常にAI翻訳でウクライナ語訳をモニターに出していました。

中国につながる子は今回一番多く、4人でした。(台東区の外国人人口1位も中国人)公立小学校に通って数年経っているようで、日本語も上手な子がほとんどでした。そのうちの2人が紹介してくれたのは、世界や、太陽がどうして生まれたかというお話しでした。ダイナミックな創世神話を選んでくれたところが、中国らしいなと思いました。

日本のこども達が持ってきてくれたのは、「1本のわら」「泣いた赤鬼」「桃太郎」「寿限無」などなど。私も小さい時に親しんだ昔ばなしが多く、今の小学生と私の頃ではずいぶん時代が変わったな、と思うことも多いけれど、今の小学生も同じ昔ばなしで育ったんだーと確認できて、安心するような不思議な気持ちになりました。

2日目の後半だけ参加だった、T君というベトナム出身の子がいました。T君は絵本の用意がなかったので、自己紹介後に他の子からの質問に答えるという時間にしました。ベトナムから数年前にきたT君には、住んでいた家や好きな食べ物など、ベトナムについての質問がたくさん出ました。

T君の好きなベトナム料理はフォー。妹のFちゃんの好物はピザだそうです。

T君は今3年生ですが、夏休みは夏期講習で忙しいそうで、2日目しか来られませんでした。外国にルーツを持つこどもといっても、多様です。

さて、うちの子。アメリカにつながるR君ですが、親が主催しているという甘えか、半分いやいや参加していたからか、1人だけ昔ばなしの紹介はしたくないと最後まで言い張り… 午前中に撮った“不思議な生き物”の写真を見せながら、その生き物を選んだ理由や、その場所で何をしているのかなどのストーリーを、優しい“とびラー”さんに促されながらしました。

本を作る。

最後には、1日目にすいた紙を、こちらで用意した蛇腹式の本の表紙に貼り、各自1冊の本が出来上がりました。表紙や、本文にタイトルや絵を描いたり、美術館に住む“不思議な生き物”のカードを貼ったり、残りの時間を楽しみました。

1人づつ完成した本を持って、カメラマンさんに記念撮影してもらいました。集合写真も撮り、ミュージアムスタートパックのお土産をもらって、2日間の「昔ばなしがきこえるよ」のワークショップは終了しました!本の残りのページにもいっぱい書き込んでね。

[スタッフについて]

山藤弘子さん

今回のワークショップでは、日本語教師をしている山藤弘子さんのご協力は大きかったです。山藤さんは台東区を中心に、外国出身者の大人や子供に日本語を教えていらっしゃいます。さまざまな理由で東京で暮らす外国人達に日本語を教えることを通じて、彼らがより良く暮らせるようにサポートをしておられました。

そもそも、東京に暮らす外国につながる子どもにもワークショップに参加して欲しいと願っても、チラシを刷って、インターネットで宣伝しても、本当に届けたい人たちに簡単には届きません。親御さんに届けないと、子供だけでは来られない事も多い。そこで、山藤さんが今までの経験とネットワークを駆使して、参加者を探してくださいました。台東区の職員さんと協力して、ウクライナからの避難民の方々が暮らす都営住宅を訪ねて、ワークショップへ誘って下さったり、児童館へもチラシを配って頂きました。ワークショップ当日も、集まった親御さん達に、お互いに連絡先を交換してつながったら?と促したりしてくれました。

山藤さんには、チラシのやさしい日本語訳に始まり、山ほど色んな事を教えていただきました。印象的だったのは、「アートは誰にでも対等なので、間口が広い。外国ルーツの子供たち一人一人に、スポットライトが当たる機会を作ってもらえるのは、ありがたい。」とおっしゃっていただいた事です。東京に住む外国出身者とひとことで言っても、移民ステータスや経済状況などの格差もあり、同じ国出身のコミュニティの中でもヒエラルキーがあったりと、複雑です。でも、美術館という場に集まり、アートを通じて何かをするということに可能性を感じていただいているのは、とても嬉しいことでした。


とびラーさん

都美術館で開催したことで、印象的だったのは“とびラー”さん達の存在です。“とびラー”とは、都美術館を拠点に「とびらプロジェクト」を実行するアート・コミュニケータの愛称です。普段から、アートを介してコミュニティを育む事を学んで、実践している大人たち。そんなスキルフルで優しい大人たちが、ワークショップの2日間、子供たちとマンツーマンで寄り添ってくださっていました。今回は要素の多いワークショップで、通訳が必要な場面もあったりと、盛りだくさんな内容。とびラーさん達は子どもたちに決して介入しすぎず、でも繊細な変化や、小さな一言などを、つぶさに見守ってくださいました。全体の進行に気を取られていた私に、ワークショップ終了後に素敵なシーンや気づきを教えてくれました。 


美術館スタッフ

そして、最後になってしまいましたが、このワークショップを担当して下さった東京都美術館の学芸員さん達と、手伝って下さったスタッフの方々には、企画、準備、そして片付けまでとてもお世話になりました。水を大量に含んで重たい紙を階段で運んだり、バルコニーに出したり、力仕事もたくさんあり大変な数週間でした。いつ、誰がコロナに感染してもおかしくない状況でもありましたが、無事に開催することができました。

本当にどうもありがとうございました。

Photo 中島佑輔





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