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1880年代ニューヨーク・電気砂糖精製会社事件

1880年代半ばのニューヨーク。

ヘンリー・C・フロイントという男が「砂糖精製に革命をもたらす手法を発明した」と主張し、投資家からお金を集めはじめました。

曰はく、現在使用されている技術では粗糖1トンにつき10ドル前後かかる一方、彼が発明した電気を用いた精製技術を使うと、1トンを80セントで精製できる、さらには短時間かつ高品質のグラニュー糖が作れる、というものです。

革命的な砂糖精製プロセスの発明

フロイントは投資家を家に招き、「革命的」製糖手法のデモンストレーションを何度も行いました。部屋の中央のテーブルの上には、布で覆われた機械の一部、そして生の糖蜜の樽。それだけ。

投資家たちは、他に何か仕掛けがないか確認できましたが、決して機械に手を触れてはなりませんでした。他に何も仕掛けがないことを確認した投資家たちは、いったん外で待機するように言われます。部屋の中からは何か音が聞こえ、10分ほどたって部屋に招き入れられると、糖蜜の樽は空っぽになり、高度に精製された砂糖が出来上がっていました

これは革命的な技術だとして、多くの投資家を感動させました。ロンドンの元弁護士であるW.H.コテリルもその一人です。コテリルはこの技術は未来を変えると確信し、フロイントと共同で「電気砂糖精製会社」を設立。コテリルは社長に就任してさらなる投資を呼びかけ、フロイントは工場レベルでの精製にスケールアップさせるための、さらなる技術レベルの向上のための実験を続けました。

電気砂糖精製会社は時価総額100万ドルの10,000株で設立され、株はアメリカやイギリスで売却されました。

秘密の技術

多額の投資金が集まり、本格的なビジネスのための下準備が整ったにも関わらず、フロイントはこの「革命的技術」の秘密を、株主はおろか、社長であるコテリルにすら明らかにしませんでした

フロイントはまだ準備が整っていないとして、支援者に機械を買うためのさらなる資金援助を求め、ビジネスが本格稼働する時にすべてを明らかにする、と言いました。これを信じ、支援者たちは20万ドル以上の資金を提供します。

この頃からフロイントの暮らしぶりは目に見えて派手になり、高価な酒を浴びるように飲むようになりました。

フロイントはブルックリンの新工場でも、以前と同じように投資家のためのデモンストレーションを何度も行いました。以前の実演と同じように、部屋の外で待つように人々に指示され、中では何か音が聞こえてきて、部屋に招き入れられると精製された砂糖が出てくるというもの。

新工場でも品質のよい砂糖が生産でき、かつこれが非常に安価だとされたため、投資家は興奮して電気砂糖精製会社の株をこぞって買い求め、1888年には株価はイギリスで1株625ドルに達しました。時価総額は100万ドルを超え、当時の注目株の筆頭でした。

進まないビジネス

フロイントは大酒飲みの生活習慣がたたったのか、1888年3月10日に突然死しました。

支援者たちはフロイント死後、本当に事業が開始できるか不安にかられますが、妻オリーブが主導して事業を進めることになりました。彼女は、自分と両親は亡き夫の秘密を知っていて、一緒に工場の完成に向けて仕事を続けられることを保証しました。支援者たちは工場が完成したらさらに7万5000ドルを支払い、その後秘密を教えることを約束しました。

しかし工場は遅々として完成せず、しかもオリーヴと両親は工場を放置して1888年12月にミシガン州ミラノに引っ越してしまいました。

コテリルは我慢ができなくなり、オリーヴらを尾行して家をつきとめ、「7万5000ドルを払うから秘密を明かせ」と求めました。コテリルは当初同意するも、その後5000ドルの追加要求をしてきます。コテリルはこれを拒否。2人は口論になりました。

疑心暗鬼になったコテリルは弁護士のアドバイスに応じて、1889年1月2日、彼と他の数人の役員がブルックリンにある工場に行き、「秘密の部屋」に押し入りました。中には、いくつかの種類の砂糖が積まれている他は、角砂糖を細かく砕く機械もあったくらいで、何もなかったのです。

詐欺の発覚

誰がどう見てもこれは詐欺で、その手口もすぐに判明しました。

何のことはなく、フロイントは食料品店から買ってきた砂糖を「機械」と書かれた箱に隠していて、投資家たちを部屋の外に出した後に、糖蜜と入れ替えていただけでした。

詐欺のニュースが広まると、電気砂糖精製会社の株券は紙切れになりました。オリーヴと両親も詐欺の疑いで逮捕されました。

この詐欺事件で大きな被害を被ったのはイギリス人投資家で、彼らはコテリルをはじめ電気砂糖精製会社の役員も共謀していたに違いないと非難しますが、役員たちは自分たちも被害者だと主張。結局刑事告訴はされませんでした。

まとめ

この事件は典型的な詐欺の特徴を教えてくれます。

・ショーの形式で見る者をひきつけ、資金援助を持ちかける

・どのようなカラクリなのか詳しく明かさない

・急に羽振りがよくなる

こうして知識として知っていても、実際に熱狂的な雰囲気に出くわすと感覚がくるってしまうかもしれません。常日頃から、自分の頭で考える、視点を変えてみる、分析してみる、を習慣化することが騙されないために必要ではないでしょうか。

参考サイト

"Freund’s Electric Sugar Fraud" The Museums of Hoax

"The Great Electric Sugar Con" American Experience

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