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ドッグフードの歴史

ドッグフードが日本の家庭で一般的になったのは最近のことです。
1991年時点で日本のドッグフードの普及率は57.8%。これが2006年には「ほとんどのエサがドッグフード」という回答が約40%、「70~80%がドッグフード」という回答が約40%となっており、15年の間に大きく普及しました。

この普及率が犬の寿命の延びに現れています。日本獣医師会のレポートによると、1980年ごろの犬の平均寿命は3~4歳であったそうです。2000年代に10歳代に突入し、2016年の日経新聞の記事によると14年の平均寿命は13.2歳だそうです。
屋内飼育の増加、狂犬病注射などワクチンの普及、ジストマや回虫など感染症への対策などほかにも要因は色々ありますが、ドッグフードの普及も大きいと思われます。
今の60代以上の人に聞くと、「昔は犬のエサと言えば人間のご飯の余りものだった」と言います。冷えたご飯に味噌汁や魚の干物、菜っ葉などをぶっかけたもの。塩分過多で犬の健康には悪いものばかりです。今では犬は10歳を超えるのは普通ですが、ちょっと前までは本当にすぐに死んでたんですね。

今回はドッグフードの歴史です。


1.原始時代の犬の食事

約200万年前から約1万年前の旧石器時代、一部のオオカミが人間の居住地のすぐそばに暮らすようになりました。オオカミは自分で狩りもしつつ、人間の残飯を与えられ食べるようになり、家畜化が進行していきます。当時オオカミがもらっていた食べ物は、茹でたり焼いたりした大麦やエンドウ豆、カラス豆などです。

食生活の変化により、一部のオオカミがデンプンと糖の消化に対応できるように進化していきます
7000年前~3500年前の新石器時代になると、人間の農業技術の発展により、犬は小麦とキビを食べるようになりました。この段階で犬の主要な食べ物は穀物になっており、狩りをする機会はますます減っていきました。
犬の歯や顎にも変化が起き、狼のように肉を骨から切り離すための鋭い歯ではなく、与えられた食物をきちんと噛めるように、歯は大きく、平らになっていきました。
こうしてオオカミは「犬」へと変化していきました

日本で発見された最古の犬の骨は、神奈川県の夏島貝塚のもので、約9500年前のものと推定されています。
縄文時代に日本に入ってきた縄文犬は、南中国からやってきた南方種で、主に狩猟犬として活用されました。縄文時代の狩猟採集社会では、狩りのパートナーとして犬は非常に重要でした。
狩猟犬たちは狩りで得た猪や鹿などの獲物の肉や内臓、骨を人間にもらって食べていました。千葉県の有吉南貝塚と白井大宮台貝塚で出土した犬の骨から、縄文人と犬は同じものを食べていたことが分かっています。また、本州以南では、主に植物性食料と海産物を食べていたと推定されています。アジやイワシを焼いたり煮たりしたものを食べていたのかもしれません。

朝鮮半島を中心として大陸から農業技術を持った農耕民が新たに日本列島に移住し、彼らが新たに中国北部や朝鮮半島の犬種を日本にもたらしました。既に日本にいた南方系と、新たにやってきた北方系の犬種が混ざり、日本犬が誕生しました。
弥生時代も犬は狩猟用として使われましたが、犬を食用として食べる文化が始まりました。米や粟といった穀物栽培の始まりにより、人々は狩りをする時間が無くなり、身近に手に入る貴重なタンパク源として犬を利用するようになったのです。
こうした人間の生活スタイルの変化に合わせ、犬たちは徐々に肉を中心とした食事から、穀物を中心とした食事をするようになっていったと考えられます。

2.古代人が考えた犬に最適な食事

大河川の農業を中心に古代文明が誕生し、商業・工業が発展し都市文化が栄えると、犬をいかに強く健康に育成するかに人々の注目が集まりました。

古代ギリシアでは、抜群の運動能力と強靭な肉体を持つモロッサスが育成されました。マスティフの先祖にあたる犬です。
紀元前37年頃、古代ローマの詩人ヴァージルは「モロッサスにはホエーを与えよ」と言いました。

犬たちの世話を疎かにしないでください。俊敏なスパルタン・ハウンド、どう猛なマスティフにはホエーを与えなさい
Nec tibi cura canum fuerit postrema; sed una Veloces Spartae catulos, acremque Molossum, Pasce sero pingui

ホエーは日本語では乳清と訳され、脂肪分とたんぱく質が豊富に含まれた犬にとっては理想的な食べ物です。犬にホエーだけを与えていたとは考えにくいので、くず肉や小麦、大麦、多様な食事を与えるようになったと考えられます。ローマ帝国時代の農学者コルメラの記した「DE RE RUSTICA」でもホエーについて言及されています。

畑が動物の群れを支えるほど大きい場合、ホエーを混ぜた大麦の食事は便利である。しかし、穀物が生えない場合、スペルト小麦または小麦パンと茹でた豆を混ぜたものを食わせるのだが、熱々だと狂犬病となってしまう。 Nam si tam laxa rura sunt, ut sustineant pecorum greges, omnis sine discrimine hordeacea farina cum sero commode pascit. Sin autem surculo consitus ager sine pascuo est, farreo vel triticeo pane satiandi sunt, admixto tamen liquore coctae fabae, sed tepido, nam fervens rabiem creat.

古代イランの宗教であるゾロアスター教の聖典「アヴェスター」には、善の
神アフラ・マズダーが告げたとされる犬に関する章があります。

この物質世界のため、ツァラトゥストラはかく語りき!善き魂を持つ一切衆生、食する人間の近くで物を食べず、誰も食わないものを見ている犬はすぐに老いぼれる。ミルクと肉付きの脂肪を与えなさい、これが犬にとっての正しい食事である。
For in this material world, O Spitama Zarathustra! it is the dog, of all the creatures of the Good Spirit, that most quickly decays into age, while not eating near eating people, and watching goods none of which it recieves. Bring ye unto him milk and fat with meat; this is the right food for the dog.

ここで善の神アフラ・マズダーは、犬の寿命が比較的短いのは、人間の食べ物を見ることはできても食べることはできないからだと言い、そのため犬は飼い主と同じものを食べることで、老衰を防ぐことができるとしています。

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