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【読書感想文】かがみの孤城/辻村深月

心が温まる物語を求めていた。孤独な気持ち、辛い気持ちを慰めてくれるような救いの物語だ。

何年か前に書店で本屋大賞受賞と、大きなポップで売り出されていた「かがみの孤城」を見た時は、まずその分厚さで読むエネルギーを削がれてしまったのを覚えている。そして表紙。狼のお面をつけた女の子と制服を着た女の子が、洋風の城を思わせる装飾がついた大鏡の前にいて、鏡の向こうに教室が広がっているイラスト。小中高と学校に良い思い出のない私は、アレルギー反応が出るように読むことを拒んだ。

あれから2年くらい経った今、ようやく買って読んでみようと思ったのは、私が文章を読んで孤独な気持ちが救われる体験をしたかったからだ。1月に読み始めて、育児と仕事の合間に少しずつ読んでいたけれど、半分くらいまで読んで一度読む手を止めてしまった。

7人の心に傷を抱えた中学生が、自宅の鏡を通じて不思議な城の世界に招かれ、願いが何でも叶う鍵を探す物語。期限は約1年間。ワクワク冒険ファンタジーというわけではなく、問題を抱えた中学生のグループカウンセリングのような内容といった印象だった。精神科の心理療法で言うところの、ピアカウンセリング。同じような問題を抱えた子供達が対等な立場で自分のことを話し、自分の問題を整理して回復を目指すものだ。

主人公のこころが不登校になった経緯の描写で胸が痛み、前半は読むのが辛かったので、途中で読むのをやめてしまった。長編を読む堪え性というのか、体力がなかったからもしれない。

しばらくして、また途中から読むのを再開した理由は、せっかく買ったのに勿体無いという理由だった。何より、感動の結末というセールスコメントに期待があって、本当に感動できるのかという、疲れた日常に潤いを求めていた事もある。中盤から終盤にかけては2日で一気に読むことができたから、この本の醍醐味は終盤の伏線回収の見事さにあったと思う。

この城は何のため作られたのか。どうして7人が選ばれたのか。ゲームマスターの顔をしている、狼のお面をつけた少女の正体は誰なのか。鍵は一体どこにあるのか。最後に叶えられた願いは誰のどんな願いなのか。物語に散りばめられた謎が一気に解決される楽しみが終盤にあった。一度読んだ後に、伏線の確認をしたくて何回も読み直してしまいそうな魅力がある。読み返すことで登場人物の未来が救われている事がわかる仕組みがあって、二度三度読んで楽しい。

傷ついた子供達が、お互いの交流を通じて助け合おうとする物語。また、それぞれの境遇を知りながら、自分の境遇を考え成長する物語。7人が7通りの傷を抱えていて、その傷に読者は共感し、一緒に物語を通じて癒されるのではと思った。

あたたかくて、切なくて、寂しさもあるけれども、登場人物全員が救われる。

物語で感動する経験が欲しくて、その期待を裏切らない良作だった。

32歳の私にとっては、子供時代の古傷を思い出す痛みがあった。どこにも逃げ場がない子供時代。「かがみの孤城」は逃げ場のない子供に、ファンタジーとしての居場所を与えてくれる作品だと思った。

そして、かつて逃げ場のなかった大人にも、物語を楽しむ喜びをくれる。きっと、不登校の子供を持つ親御さんにとっても救いとなるような内容だったと思う。傷ついた子供に対して、どうしてあげたら良いか、どのように寄り添ってあげたら良いかのヒントがあったからだ。それが必ずしも正解ではないかもしれないけれども、一つの道標として。

#かがみの孤城感想文

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