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【読書感想文】ミシンと金魚/永井みみ

第45回すばる文学賞を受賞した永井みみ氏の「ミシンと金魚」を読んだ。一人暮らしをしている認知症のお婆さん、カケイさんの一人称視点で、彼女の哀愁に満ちた人生をめぐる物語だった。

一人称の語りが素晴らしく、目の前に等身大のお婆さんがいるようで、むしろ自分自身が主人公の老婆に乗り移ったような臨場感があった。混濁した意識での会話が、鉤括弧を一切使わないことで表現されているように感じた。

独特の語りで小説の世界に引き込まれ、一気に読ませる魅力があり、主人公がお嫁さんに粗末に扱われる描写は可哀想で涙が滲んだ。

年老いた主人公が自分の人生を振り返る小説なので、登場人物の死がよく描かれている。先に去って行った家族達の語りの様子が切ない。

「カケイさんの人生は、しあわせでしたか?」
訪問ヘルパーさんの投げかけた一言がこの物語の主軸となって、カケイさんの半生を思い出させる。ミシンと金魚は、カケイさんの人生が最も幸せだった思い出の象徴であり、その幸せを破壊した原因でもあった。

カケイさんは自分が産んだ娘が生きていた2年と少しの期間が人生で幸せだったと語る。その語りが、胸を締め付け涙を誘った。不条理な人生の中で、不条理に生まれた娘が、日常に空いた残酷な穴に吸い込まれるように死んでいった。

私自身が今2歳の息子を育ていていること影響しているのか、作中に登場する2歳だった主人公の娘の描写は非常に生き生きとしていて可愛らしく、息遣いが聞こえてくるようだった。だからこそ、2歳の娘が亡くなった後の描写は涙なしには読めなかった。

2歳の娘が「きゃらきゃら」と笑う表現は、確かに小さな子供はそう笑うかもしれないと、言葉の表現の美しさを感じた。私の人生も、子供が小さい今が実はとても幸せなのではないかと思った。

悲しく、哀愁に満ちていていて、それでもどこか光を灯すような温かい小説だったと思う。

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