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珠川こおり著「檸檬先生」から発せられるLGBTの叫び*ネタバレあり

第15回小説現代長編新人賞の受賞作、珠川こおりさんが書かれた「檸檬先生」を読んだ。飛び降り自殺したヒロインの遺体を眺めるシーンから始まる物語で、主人公とヒロインとの交流とヒロインが自殺するまでの経緯が描かれている。

主人公とヒロインは音が色に、色が音に、数字が色に感じられる共感覚という独特な感覚を持つ者同士として引き寄せられる。出会った当初は小学3年生であった主人公と中学3年生のヒロインは同じ小中一貫校で出会う。共感覚について教えてくれたヒロインに対して、主人公は年の差もあって「先生」と親しみ、友情を育んでいく。

二人とも共感覚という、普通にはない感覚で日常生活を送ることが苦しく、それぞれのクラスでいじめに遭い、家庭にも居場所がない状態であった。二人は同じ孤独を分かち合う親友のような存在で、物語は共感覚の世界をイメージした鮮烈な色彩描写と音楽表現を通じて紡がれる。

ただ、物語の本質はなぜヒロインが自殺したかだ。ヒロインは物語の中で、自分が女性に対して恋愛感情を持つ事を告白した途端に親友を失い、クラスでの居場所を失ったような発言があった。「少年」である主人公に「好きだ」と言われて、嫌悪感にも似た失望を顕にすることもあった。

ヒロインは物語の終始で男言葉を使い、自殺の直前に一人称が「俺」になって自由にならなかった人生、本当の自分を誰にも認めてもらえなかった苦悩について吐露する。

主人公は物語を通じて、「先生」という共感覚の共感者を得て、共感覚を持ちながらも日常生活を送るべく克服方法を先生に学び、先生と文化祭に向けて共感覚アートを制作し発表することで、これまで破綻していたクラスでの人間関係を修復し、家庭環境も改善し、救われていく。主人公が救われる刹那に「先生」は主人公の元から消えてしまい、10年後に現れて目の前で自殺する。これは救われたはずだった私と救われなかった先生の対比で、先生の自殺によって私は永遠に救われない存在となる。

先生は誰かの唯一を望んでいたけれども、自分自身が透明で、生きていても存在していないような苦しみをずっと抱えていた。女として生まれたこと、魂は男であること、保守的な家柄に生まれ、誰も本当の自分を見てくれなかった孤独の叫び。誰かに本当の自分として生きられない苦しみを解ってほしい、そのような悲痛な想いが込められた作品に思えた。

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