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未確認生物との遭遇

未確認生物との遭遇


去る10月16日。
私は由仁町に向かいました。
何故か。
ちはるさん講演、「命の参観日」が、由仁町で開催されることになったからです。
そこで私は、講演中の子守を買って出ました。
ちはるさんとコウちゃんに会いたい。
そして、
ちはるさんのもとに新しく生まれた女の子、もえちゃんにも会ってみたかったからです。

以前も書きましたが、私は一人っ子です。
更に、いとこにもほとんどあったことがありません。
小さな赤ん坊に触れたことは、今まで一度もないのです。
ちはるさんはしきりに言いました。
「なおちゃんに、もえを会わせたい」。
私は臆していましたが、写真や動画でもえちゃんを見るたびに、
会ってみたいなと思うようになりました。

そして良いタイミングで緊急事態宣言が明けたため、
JRで3時間半かけて由仁町まで行くことを決意しました。
ちはるさんのご主人様――パパさんもいらっしゃって一緒にいて頂けるとのことだったので
私は安心しきっていました。
今回はそんなに負荷がかかることもないだろうと。
しかし、当日の直前、ご主人様からこんなLINEが届いたのです。

「仕事の都合で13時19分由仁町到着です。なるべく早く子守に加勢しますので……それまで持ちこたえてください笑」

ワッツハプン?

ちはるさんはリハーサルのため11時には由仁町に入るのです。
ということはつまり、私はちはるさんのリハーサル中、ひとりでふたりの子守をするということになります。
もう一度言います。

ワッツハプン?

こうして、ドキドキしたまま当日を迎えることになりました。
移動はすごく長いですが、私の住む実家から札幌に行くにも最低でも2時間半はかかります。
ですので、移動自体は慣れっこでした。
始発、5時52分発の列車に乗りこみ、あとは半分寝ていきました。
無事に9時半に由仁町に到着しました。

少し待って、ちはるさんが走ってやってきてくれました。
「なおちゃん! 今こうとともえが二人だけだから急いで!」
ぼけぼけしていた私は携帯を見るのを忘れていたので不在着信にも気づかず、
慌てて楽屋へと向かいました。

そこには、久しぶりに会うコウちゃんと、ピンクのお洋服に包まれた、赤子。
コウちゃんは、久しぶりに会ったことなど気にも留めないように「おう」と言ってきました。
ちはるさんは忙しくしているので、自然とコウちゃんの相手に入りました。
コウちゃんは新しいゲーム機を買ってもらったようでご満悦。
私に「じゃーん!」と喜んでゲーム機を見せてくれました。
早速一緒にゲームをやってはいたのですが、私はもえちゃんのことが少し気になります。
しかし、母に教えられた「赤ちゃんは放っておいても問題ない。コウちゃんの相手をしておけばいい」との言葉を思い出し、
私はできるだけコウちゃんのそばにいることにしました。
もえちゃんはとてもおとなしく、手足をばたばたとさせていました。
ちはるさんが少し落ち着いて、お昼ご飯を食べようという頃に、
ついに私はもえちゃんに触れよう、とそばに行ってみました。
「さわってあげて!」と言うちはるさんの言葉に背中を押され、
もえちゃんの手に、そっと指を乗せました。
すると、思っていたよりも強い力でぐっと握り返されました。
強い。赤子の力とはこんなに強いものなのか。
まず私は驚きました。
そして、頬に指が触れた瞬間、衝撃が走りました。

これが、俗に言う「あかちゃん肌」……!!

すべっすべの、つるっつるの、ふわっふわで、
これはもう誰もがうらやむ肌だろうと痛感しました。
初めて触れた赤子のお肌は本当に素晴らしい触り心地でした。

さて、パパさんも到着し、マネージャーさんもコウちゃんと遊んでくれて、
もえちゃんはおとなしいし、私はとても楽をしていました。
講演が始まってからも、パパさんの子守に頼りっきりでした。
しかし、突然コウちゃんが走り出し「マネージャーさんと遊びたい!」と言って楽屋を飛び出してしまったのです。
当然パパさんは追いかけていきます。
そして、
当然、私ともえちゃんは二人っきりになります。
ということは、
当然、もえちゃんは泣きます。
どこの馬の骨とも知らない女と二人きりにさせられたのだから、それはもう、当たり前も当たり前でした。
私はどこか腹が座って、さて、どうしようかと仁王立ちしていました。
とりあえず「泣いたらミルクかおむつ」と聞いていたので、おむつを替えようとしましたが、
ちはるさんが直前に替えたばかりで、どう考えてもおむつではありませんでした。
ということは、ミルクです。
楽屋に置いてあった固形のミルクを手にとって、袋に書いてある通りになんとかミルクを作りました。
が、適温が分かりません。
「体温くらいまで冷めてから」と袋には書いてありましたが、どのくらいが「体温くらい」なのかがわからないのです。
とりあえず手に出し、「まだ少しあったかいけどこんなものか!?」というところで、
泣いているもえちゃんを恐る恐る抱いて、哺乳瓶の乳首を口に突っ込みました。
はい、突っ込みました。
とてもじゃないけれど「優しく」だとか「そっと」だとかではありませんでした。
だけれどそれが良かったようです。
もえちゃんはとても上手にミルクを飲んでくれて、一時はおさまってくれました。
が、ミルクを離すと泣いてしまいます。
ミルクをあげて、離して、泣いて、ミルクをあげて、離して、泣いて。
その繰り返しでした。

どうしよう。お手上げだ。

そう私が思ったとき、パパさんがコウちゃんを連れて戻ってきてくれました。
慌ててバトンタッチをして、私はちはるさんの講演の写真を撮りに行くことにしました。

講演も無事終わり、大慌てでちはるさん帰る支度をして、由仁の方が送ってくださる車に乗り込みました。


なんだか時間があっという間で、私は喫煙者なのですが、煙草も吸おうと思いませんでした。
きっともっとできることがあった、もっとやるべきことがあったと思うのですが、
私は謎の幸福感に包まれて、ちはるさん一家とともに札幌に戻ったのです。

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