見出し画像

しょうらいのゆめ

しょうらいのゆめ


私の夢は、服屋の販売員さんになることでした。
結果として、それはかなえられました。
かなえられたけれど、私はその場から離れることになりました。
嫌いになったからではありません。
服屋の仕事も、仕事それ自体も大好きでした。
何故、辞めなければならなかったのでしょうか。

――向いている、向いていないという言葉があります。
私はそもそも仕事には向いていないと思います。
では何になら向いているのか、と考えても何も出てこないので
私に向いているものは何もないと思っています。
何にも向いているものが無いのであれば
何にでも、すべてに向くことが、自分を向かせることが出来るのではないでしょうか?

――仕事はつらいという人がたくさんいます。
何故仕事はつらいのでしょうか?
仕事とはすべからくすべてつらいことなのでしょうか?
そんなことはないのではないか。
そもそも仕事を好きになればいいのではないか。
仕事の時間というものは長いもので、1日の内の約3分の1を占めます。
睡眠時間も考えれば3分の2は仕事のためにあるようなものです。
であれば、仕事自体を好きになってしまえば1日が大好きになるのではないでしょうか?


私は大学生活を経てそう考えました。
そして好きな接客を仕事にして、仕事自体を大好きになるよう努めました。
最初に就いた仕事は服屋ではなく眼鏡屋でしたが、考えた通りに、仕事を大好きになりました。

だから、理不尽な目にあっても、泣いても、仕事は楽しかったです。
眼鏡屋はなかなかに悪環境で、それこそハラスメントも受けましたが楽しかったと言い切れます。
店に立たせてもらえないならビラ配りを1日中しました。
ビラ配りにもコツがあることを、やっていく中で知りました。
どうやったら手に取ってもらえるか、印象が良くなるのか。
どんな表情で、どんな姿勢で、どのタイミングで差し出せば良いのか。
ひたすら考えて立ち続けました。
店に戻った時にビラを持った人で埋め尽くされていた時は、誇らしい気持ちになったものです。
上司にどんなに駄目だしされても、ほめてくださるお客様がいらっしゃいました。
「お前はもう売るな」と言われても、お客様は「あなたから買ってよかった」とおっしゃってくださいました。
ワンオペの店舗に立った時も、「あなたは感じがいいわね」とおっしゃる方がいてくださいました。
友達も来て買ってくれました。
私のワンオペ時の売り上げは、前年比115%でした。
「あなたはきちんとできてるよ」とおっしゃってくださる先輩もいました。

服屋でも、様々な苦難がありました。
たった2人の店舗でした。
本社からの応援は少なく、要請は多い。
それにより上司はいつも気を張り詰めていました。
怒られることばかりでした。
だけど、
やっぱりお客様は、私の支えでいてくださいました。
上司の目が怖かった頃でも、夢中になって接客していたら恐怖なんて忘れてしまいました。
楽しく接客して、すごく素敵なコーディネートができたとき、トータルでお買い上げいただいたこともありました。
お高いお洋服屋で通行客には馬鹿にされることも多々ありましたが、
それでも私との会話を楽しんで、頑張って1点買ってくださるお客様がいらっしゃいました。
ずっと私を見守ってくださる、上顧客の方がたくさんいらっしゃいました。
最初はあたりが強かった上司も、私への対応を必死に考えて、合わせてくれるようになりました。

お客様がいれば、どんなことにだって耐えられた。
どれだけ辛くても、お客様が来店すれば自然と笑顔になれた。
数字に表れれば震えるほどうれしいし楽しかった。

大好きなことだった。

なのに辞めなければならなくなりました。
辞めたくなかった。
できれば今だって服屋で働いていたかった。
なぜ辞めなければならなかったのか。
――頑張りすぎたから?
仕事は頑張るものです。みんな頑張っています。
私だけではありません。
――上司が酷い人だったから?
眼鏡屋の上司はまぁ酷い人でしたが、
服屋の上司は問題もあれど心根の優しい人でした。

答えは、そういったものではなくて、
向いていなかった
のだと、今は思います。

最近、就労支援事業所に通い始めて、そしてちはるさんのお手伝いをしていて
「向いている」ということを感じることが出来るようになりました。
説明を聞いて納得すると「理解が早い」と言われたり、
事務作業で「ミスがなくて速い」と言われたりするようになりました。
そんなことは今まで言われたことがなかったので、私はびっくりしました。
お店での仕事ではミスばかりですべてが遅いことばかりだったからです。
しかしよく考えてみれば、パソコンを使った作業では頼られることも多くありました。
トラブルシュートも自力でできるところまでやってから相談すると
「よくそこまで行きついたね」と、システム部の人に言われたこともありました。

結論として、「向き不向き」というものはあるのだと思います。
ただそれを探すのにもまた「向き不向き」というものがあって
私はそれを探すのが物凄く「不向き」だったから、
いまこういうこと――つまり、仕事ができない状態――に、なっているんだと思います。
「不向き」な場にずっと居続けたから。
私を壊した原因は、やはり私自身にあったのだと思います。

お客様の前に立つことが怖くなったのは、とても悔しい。
もう一度接客業で働きたいという思いが無くはないです。
でも、私の能力を活かす場がそこではないのなら、
こだわりや好みを、しょうらいのゆめを捨て、
自分の能力を活かせる場で働いた方が幸せなのではないか。
無いと思っていた自分の能力で、もっと誰かの役に立てることがあるのかもしれない。
全く考えも及ばなかったところで、私の能力が役に立つのかもしれない。
そういう希望が、今は少しだけあります。
どこか、まだしらない場所に、そういう場所が、ありますように。
今の私の将来の夢は、「私に向いている仕事に就くこと」です。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?