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「塩狩峠」三浦綾子

 今この文章を書いているときにも、この本を思い返すとじんわり涙が出てきます。

 主人公・信夫は東京で生まれ育ち、その後北海道へ渡ります。ほぼラストまでのあらすじが文庫本の裏表紙に書かれており、それを読んでから本編に入ると、まるで彼が最後の選択に至るまでの足跡をスローモーションのようにゆっくりと辿っていく感じがしました。久しぶりに一人の人間の生涯を追っていく小説を読んだのですが、これも小説の醍醐味の一つだなあと感じます。

 なぜ生まれてきたのか、なぜ死ぬのか。流れるように日々を生きるのではなく、自分で一つ一つを考えて、納得して、踏み締めて生きていく登場人物たちの姿が強く美しく、ただただ打ちのめされました。どうしてそこまでできるのでしょうか。
ひとつには、彼らが孤独ではないからだと思います。主人公である信夫の周りには、たくさんの人がいます。尊敬できる家族や理解しあえる友人、希望と生命力に溢れた初恋の人までも。愛が原動力になって、人を支え、導いている世界が、痛いくらい眩しかったです。

 もっと良くいきたい、良い人になりたい、と思っても、惰性でただただ終わりまで流れてしまいそうな私には、少し辛い一冊でした。この本を読んでも、後ろ暗さを感じないような人間になれればなあ、としんみり思います。





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