見出し画像

家族とはなかなかできない対話・家族だからできる会話

先日、暮らしている団地で草取りボランティアがありました。

私は今年、理事の一員なのでお手伝いに入ってたんですが、
時間になるとゾロゾロと住民の皆さんがやって来ます。
ほとんどが高齢のご夫婦です。
例年は草取り活動後には、おでんやらジュースやらビールやらが
配られるんですが、今年はコロナ対策でごほうび宴会はなし。
ただ雑草を抜くだけです。

それでも出てきてくださったみなさんは、
てきぱきと道具を持って植栽の周りをきれいにしていかれます。

中に、ご近所の老夫婦がいらっしゃいました。
おばあさんの方は認知症が進んでいて、
普段廊下ですれ違って挨拶をすると、
「これはこれは、こんにちは」と丁寧に頭を下げてくださる。
でも、私が声をかけたせいで意識が切り替わってしまって、

向かっていた先がわからなくなって、「右? 左?」と戸惑っては、
おじいさんに「そっちじゃないだろう!」と叱られていました。


いつもハラハラそのご夫婦を見ていましたが、その朝も
お二人は一緒に手を繋いでやってきて、
「私たちみたいのでお役に立ちますかどうか」と深々頭を下げながら
ビニール袋を手に、草を抜いては入れてくださってました。

スクリーンショット 2020-10-31 12.08.48

1時間ほど作業をし、そろそろおしまいとなり
それぞれにビニール袋に溜まった雑草をゴミ収集所に運びます。
例のおじいさんもゴミを持って、「ばあさん、ここにいるんだぞ!」と強めに言って収集所に向かいました。

しばらくすると、おばあさんがキョロキョロしていたので、
「ありがとうございました。結構汗かきましたね」と話しかけました。
「ええ。あの、うちの人がどこかへ行っちゃって。探しに行こうかしら」と
おばあさんがおっしゃるので、
「ご主人はゴミを捨てにいかれただけですよ。すぐ戻っていらっしゃいます。ここで待っていてくださいね」と言いました。「あら、そう?」

このやりとりを3回くらい繰り返した後、おばあさんは言いました。

「それにしてもね」

「みんな草刈り草刈りって言うけど、そんなに目の敵みたいに草を抜かなくてもいいと思わない?」

それな! 

と言いそうになりました。
私も草を抜きながら
「これは“雑草“なのか?”植栽”なのか? どこから無駄な草なのか? こんなに根っこを張ってるのに無理やり抜いたら・・ほらミミズが出てきたやん。そもそも植栽しといて雑草抜くって矛盾してへん?」と思いながら草を抜いていたので
「そうですよね。本当に」と答えました。


「ほら、抜いたって抜いたって、草はこうしてレンガの端からだって生えてくるんですよ」
とおばあさんが指差す先を見ると確かに、レンガを合わせて地面を埋めてあるその間から、
緑がニョロニョロと生えています。
「ええ、そうですね」
「草だって、こんなみじめになっても生えてるだから、気の毒ですよ」
「ええ、そうかもしれません」

「でもねえ。草も生きてるんですよ。こんなでも」

おばあさんが目を輝かせて言うので、私はうっとりとしてしまいました。

「本当ですよ。本当にそうですね」

おばあさんは私の目を見て、しばらく考えて言いました。
「ああ、あのね、うちの主人はどこへ行ったのでしょう? 探しに行った方がいいと思うんだけど」

「いえ、ご主人はゴミを捨てにいかれただけですぐ戻られますよ。あ、ほら向こうから帰ってこられましたよ」

おばあさんは、そちらの方を向いて、しばらくして「ああ」と笑いました。

「一体どこの年寄りかと思ったら、うちのじーさんじゃないの!」

その大きな声にびっくりして顔を見ると、
おばあさんは私の顔を見て、ニヤッと笑いました。
そしてご主人が近づいてくると、いっそう高い声で言いました。
「ねえ、どこの年寄りかと思ったら、うちのおじーさんだったわよ、あなた!」

するといつもは不機嫌そうにおばあさんを叱っているおじいさんも笑いました。
「そうだよ。もうこんなだよ。俺だよ」

二人はふふふと笑って、私に深くお辞儀をして、部屋に帰っていかれました。

*****

お二人を見送りながら、ああ、きっとずっとこんな風に冗談を言い合いながら、仲良く手を繋いで暮して来られたご夫婦なんだなぁ、と思いました。
いつもおばあさんが、心もとなく”わからない”状態になると、
おじいさんがきつく怒ってしまうのは、寂しくて怖いからなのかもしれないなぁ、と。

私自身、家族に、いろいろなことを忘れていった人がいました。

ここで待っててね、と言っても10分もしないうちにどこかへ行ってしまった人が。
大切な人でした。
でもその姿を見るたびに、私には悲しみより先に、怒りが湧いてくるときがあった。
何を話せばいいかわからなかった。

とてもあのおばあさんにするように、「大丈夫、少しここで一緒に待ってましょう」と言えなかったのです。

突拍子もない話をし出した時に
「本当にそうですね」という代わりに「何言ってるの・・・」と愕然としてしまう。

家族だから、うまく話せないっていうのは、なんだろう。
喧嘩をしたり、心を受け止められなかったり、思ってもないことを言ってみたり。
それでもやっぱり何かの瞬間に、あのお二人のようにピッと繋がって
話ができるように準備していたいと思うのです。

ちゃんと聴き、語りさえすれば。

*****

11月6日(金)10:00~12:00
一般社団法人「次のキレイへプロジェクト」さんに御誘いいただき
「あなたを聴いて、わたしを知る 物語を描きなおすインタビューレッスン ~家族編~」というオンライン講座を開催します。
(以下リンクあります)

スクリーンショット 2020-10-31 9.41.23

ライターとして15年のインタビュー経験をもとに
誰からかちょっとした本音を聞き出すノウハウ(ポイント)や
家族とどう深い話ができるか、という提案をしていきたいと思います。
リアルなオンライン受講の方には、実際にワークでインタビューをしあって
対話の体験をえてもらいます。もちろんこっちがおすすめですが、

講座の約半分の部分の収録受講(後日録画を好きな時に見ていただけます)もあります。

内容はこんな感じです↓

スクリーンショット 2020-10-31 9.31.32

受講者の皆さんとも対話について一緒に考えていきたいです。

※申し込み締め切り:11/3(火)10:00までです。迷ってくれているお友達のみなさま、ぜひ!
https://tsuginokirei.or.jp/lesson/interview1

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?