見出し画像

悪は存在しない(Evil Does Not Exist)         /濱口竜介監督作(2024)


「ドライブ・マイ・カー」で実現されたコラボレーション。この作品でも音楽を担当する石橋英子さんによるライブ時に流す映像の依頼から始まったと言われる作品。
「ワン・プラス・ワン」を想起させる配色のタイトルにジャズのドラムロールと60年代のジャン・リュック・ゴダールを感じるのも束の間、カメラは森に深く入りアンドレイ・タルコフスキー監督の「ノスタルジア」や北欧の冬やECMレーベルのジャケットくらいしか見た事もないほど美しい自然が映し出されます。
 コロナ禍のあおりで経営難に陥った企業が政府からの補助金を得ての締切ありきで、今の流行りに誰よりも早く乗ろうとするビジネス。門外漢の企業と変化を求めていない地域にビジネスを作り出すコンサルの存在。自然との共生や持続可能性や地域活性化という名のもと脈々と続く住民の生活の歴史を無視した計画。全て今起こっている事を絶妙な人物描写でドキュメンタリー的に描きながら、観るものに形而上学的な問いを提示し、やはり哲学が必要であるかのごとく、まず何よりも美しい。濱口監督のコメントを手掛かりにタイトルの意味を考えてみたい。
「制作に先立ってリサーチをしているときに、映画に出てくるような大自然の風景を見つけました。生命の気配のない冬の森に入って、劇中の親子のように深呼吸をしていると、ここに悪は存在しないという気持ちになるわけです。」

シングル盤付きスペシャルパンフレット
各国のポスター

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?