そうだ、東京に行こう。
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現在、自主出版のクラウドファンディングを行なっているエッセイ本
『たまごサンド』に掲載予定の書き下ろしエッセイを一部先行で公開します。
「そうだ東京に行こう!」
大きな決断ほど突然思いつくのかもしれない。
なんでもない日の午後、駅前のジムに通っていた私はいつものように
ルームランナーで走っていた。
ジムの窓から出来たばかりのファミリー向けマンションと小さな公園が見えた。
その景色を眺めながら走っていたら突然「私10年後もこの景色を見ているのかな」と思った。
そして次の瞬間には「そんなの嫌だ!」と強く自分の中からこのままじゃダメだという警告の鐘がなった。
「あ、そうだ東京に行こう」そう決めた。
ほんの一瞬の出来事だったけど、その先の長い旅のはじまりの瞬間でもあった。
警告の鐘は始まりの鐘でもある。
あっさり決めた東京行き。
その時の私は猫と楽しく暮らして、仕事もコンスタントにあって生活もある程度は安定していた。
正直東京にいまさら行かなくても仕事はあったので、東京に行く理由は“10年後も同じ景色を見たくない”それしかなかった。
10年後もあのジムからの景色を見ている自分を安易に想像できて、
たぶん私は10年後も変わっていない・・・そんな自信があった。
それくらい想像した自分の10年後がリアルだったから、変わらないままの私を変えるのは今の私しかいない。
決めたら行動は早い。
すぐに物件を探したけど「あれ?私東京のどこに住みたいんだっけ?」とネットの賃貸情報の地域の選択画面で止まってしまった。
東京には何度も行ってるけどほぼ仕事で限られた場所しか行ってないし、
東京のことを私は何も知らない。
住みたい場所がわからない。
出勤もない自由な自由業(フリーランス)、ほぼ家にいる仕事、一体東京のどこに住めばいいのかわからないまま途方に暮れていた。
そんな時お世話になっている先生(本をたくさん出している作家さんでもある)に相談したら「〇〇はどう?」と、聞いたこともない地名が出てきて『どこだろう?』と思いながらGoogleマップで検索したその街を見て、私はなんとなくこの街のような気がした。
たまたま東京に行く予定があったので事前に調べておいたマンションを見に行くことにした。
当日その街を歩いた瞬間にここで暮らしていることが想像できてしまい、調べておいたマンションについた時エントランスからかわいいシバ犬とおばあちゃんが散歩に出掛けて行くところを見て「ここに住もう」と決めた。
その風景が可愛くてあまりにも平和だったから「ここ」だと思った。
関西に帰ってから申し込みをしようと歩いていたらふと小さな街の不動産屋さんが目に入って、
なんの躊躇いもなく自然に私は吸い込まれるように扉を開けた。
(扉は古い引き戸だった)
中に上品そうなおばあさんが1人、
「あの、この通りにあるマンションに住みたいんですけど」と伝えるとそのおばあさんが「いいわね、この街気に入ったの?ならこの先をこう行ってこう曲がると不動産屋さんがあるから私に聞いて来たって伝えてみて」と優しく教えてくれた。
「ありがとうございます、行ってみます」と伝えて
その不動産屋さんに向かおうとした時「あなたこの街に住んでね」と、
おばあさんは私を笑顔で見送ってくれた。
きっとここに住むだろうという想像は確信に変わっていた。
不動産屋から不動産屋に向かう、教えてもらった不動産屋さんでさっきのことを伝えるとそこの担当者さんが「あー、その人はこの辺りの大地主だよ。その人の推薦なら確実に住めますよ」と言われて、そのままそのマンションの部屋を見に行くことになり、申し込み、その日の夕方には大家さんからのOKが出てトントントンと私の東京の住まいが決まったのでした。
なんというスピード。最初は駅を見に行くだけのつもりだったのに気づいたら契約して決まってしまった。
そしてその1ヶ月後に私は上京する。
「そうだ東京に行こう」と決めてから8ヶ月くらいの物語。
決めた当初は引越し資金もなかったけれど、なぜかそのあと新しいお仕事やチャンスが舞い込んできてあれよあれよという間に引越し資金もなんとかなった。
決めたら現実は動く。
方法やルートは予想外かもしれないけど、意外なことや登場人物が現れて行く必要がある方向に進んでいくんだなーと実感した。
ちなみに私がそのおばあさんに会った日は水曜日でした・・
他の不動産屋は閉まっていたけど、なぜかそのおばあさんのと教えてもらった不動産屋だけは開いていた。
なんだか今思い出してもその日は不思議な日だった、まるで不思議の国のアリスの世界に迷い込んだみたいな日。
きっと私の10年後の景色が変わった日でもあったのだ。
あのまま同じ景色を見るのか、どんな景色かはわからないけど違う景色に変えるのか、私にとってこの上京はその選択のためにあった。
「そうだ東京に行こう」そう思った私は間違っていなかったと
思えるのは少し先なんだけど、
2024年の私は「大丈夫、間違っていなかったよ」と
あの時の私に伝えたい。
ーそうだ東京に行こう。ー
『たまごサンド』収録
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初のエッセイ本『たまごサンド』は2024年12月発売予定です。
自主出版に向けて現在クラウドファンディングを行っています。
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