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かまくらの明かり

秋田の冬空の下、かまくらがひょこひょこと顔を出している。

この地で育った吾郎と次郎は何をするのも一緒。同じ日に産まれたもんだから顔の見分けもつかない。唯一の判別方法は服装。上着の左胸の所に吾郎のには『G』、次郎のには『J』のワッペンが縫い付けてある。お母さんが作ってくれた世界で一つだけのワッペン。冬はいつもこの服装で小学校に通っている。来年はいよいよ卒業だ。

吾郎と次郎は好きなことも似ている。かまくらの中で餅を焼いて食べるのも好きだし、そのかまくらの中でおっちゃんの話を聞くことも大好き。おっちゃんの本当か嘘かわからない話はとっても面白いのだ。

今夜もそうそうに太陽が仕事を終わらせ、世界に暗闇が広がった。かまくらの明かりだけが灯っている。その明かりの中で、今日も二人はおっちゃんの話を聞くのを楽しみにしていた。中に入ろうとした時、かまくらの背中で佐山が立っているのを目撃した。

佐山は二人のクラスにこの秋、東京から越してきた。顔立ちも髪型服装も洗練されていて二人とも一瞬で佐山に釘付けになった。すぐに友達になりたいと思ったのに、女子に話しかける恥ずかしさが勝ってしまって今の今まで話かけることすらできていなかった。佐山も急な田舎暮らしに困惑していて、中々クラスに馴染めずにいた。

佐山あそこで何してるんだろう、と思いつつも話しかけることができず、かまくらの中に入った吾郎と次郎。おっちゃんは早速、面白い話を披露しだしてくれている。だけど普段と違って笑っていても楽しくない。

「おっちゃん、ちょっと外に出てくる」

「おっちゃん、ちょっと外に出てくる」

全く同じタイミングで吾郎と次郎はおっちゃんに話しかけた。

「あっ」

「おっ」

吾郎と次郎は顔を見合わせ阿吽の呼吸で外に出た。かまくらの背中に回り、夜空を見上げている佐山を見つけた。

「佐山、そんなとこに立ってないで、中入れよ。とっても面白い話をしてくれるおっちゃんがいるんだ」と吾郎。

「かまくらの中で食べる餅は美味しいし、中はここより温かいんだ、中入れよ」と次郎。

佐山は声は発さず、うん、と微笑む。

その姿に吾郎と次郎はへへへ、へへへ、と照れ笑い。

それから三人でおっちゃんの話を聞いてワハハ、ワハハ、ワハハと大笑い。

佐山もおっちゃんをいたく気に入った。吾郎と次郎は親指を立ててグッジョブグッジョブと言ってくる。二人の鉄板ネタなのだろう。くだらないのに、笑えてしまう。こんなに笑ったのっていつぶりだろう。笑い涙と誤魔化して涙が目尻を濡らした。


帰り道、佐山はさっきまで自分が居たかまくらの方を見た。自分の心を表しているかのように頼りない明かりだと思っていた、かまくらの明かり。なんでだろう。今はポッケのカイロより温かく、満天の星空より輝いて見える。


おしまい


(1060字)

#冬ピリカ応募

ピリカグランプリに初めて参加させていただきます。

そして今回の物語「かまくらの明かり」は、現在絶賛開催中の沙々杯で考えた一句と同じ情景を想像しながら創ってみました。

その一句がこちら。

かまくらの裏で立ちんぼ引越子

沙々杯に参加するために冬の美しい景色を探していたところ、無数のかまくらから発せられる優しい灯りに心奪われました。そんな優しい灯りの裏で淋しい想いをしている子。その子を救う物語を作ろう。それがこの物語を書き始めた動機です。

吾郎と次郎によって、引越してきたばかりで淋しい想いをしていた佐山の心をなんとか助けられたかな。

明かりの裏には暗闇がある。暗闇の中で泣いている子を僕らは絶対見捨てない。

同時期に素敵な企画を立ち上げてくださったピリカグランプリ、沙々杯運営の皆様、本当にありがとうございます。

最後まで楽しみます!

終わり




ここまで読んでいただきありがとうございます。