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バーチャル百合

 真っ暗な室内で、ディスプレイの灯りだけが煌々と眩しい。そこのデスクランプでもシーリングライトでも点ければいいのだが、こっちの方が雰囲気が出る。

「秋山紅葉……」

 わたしは無理して低く呟いた。そのせいで喉が痛むが気にしない。見つめるパソコンの中で喋っているのは、真っ赤な髪と黄色の目をした、可愛い3Dモデルだ。秋山紅葉。このVtuber戦国時代の中で、一目置かれている新進気鋭の個人Vである。そして、わたしがひそかにライバル視している存在だった。

 わたしの名前は海崎みなと。本名ではない。Vとしての名前だ。Vとして、というのも違うかもしれない。わたしはわたしとしてVをしているのではなく、海崎みなとという娘を演じているのだ。

 いや、そういうVtuber論は今はいい。目下の話題はみなとと紅葉のことだ。わたしたち(便宜上わたしとして扱っておく)は、丁度同じ頃に始めた個人V仲間ということでお互い知り合って、相互フォローになって、よくリプライを交わす仲になっている。

 けれども対等なわけではない。紅葉はわたしのことを友達みたいに扱ってくれるが、私はそうは思えなかった。彼女のフォロワー数はわたしの倍だ。ついでにポリゴン数も恐らく全然違う。悔しい! そういう僻みはどんどん凝り固まっていって、いつの間にかライバルだと思うようになった。

 でもなんで今更こんなにぐるぐるしているかというと、今わたしが見ている、少し前に彼女が上げた雑談動画で、みなとに触れられていたからだ。見た目も声も仕草もすごく可愛くて大好き、と。心から言っているのがなぜか伝わった。

 だから嫌いになりきれない! わたしは机に突っ伏す。紅葉はわたしがこうやって暴れているのなんか知らないし、彼女がこうなることもないのだろう。それがまた悔しかった。

おいしいものを食べます。