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屋上で食べるシウマイ弁当

デパートの屋上でごはんを食べるのが好きだ。

はじまりは、娘がまだ赤ちゃんのころだった。子連れでの食事は、じっと座っていられないだけでなく、補助椅子はあるか、トイレは使いやすいか、食べさせやすいものはあるか、なければ持ち込んでも大丈夫か、小さなハードルがいくつもある。もちろん、いまとなっては、そんなに気負わなくても、どこだって意外とどうにでもなると言い切れるのだけれど、初めての子育てのころは、そうは思えなかった。たった10年前かそこらの話なのに、いまよりずっと子連れフレンドリーなお店は少なかった気がする。

あるときデパートの屋上に行ってみたら、そこは子連れの楽園が広がっていた。芝生でハイハイしている赤ちゃんもいれば、ごろんと寝っ転がっているお父さんもいる。走り回ったり、お弁当を食べたり、みんながのびのび、自由に過ごしていた。

そしてデパートの屋上は、わが家の定番ランチスポットになった。

屋上ランチの日は、デパ地下で、めいめいに好きな弁当や惣菜を買う。子どもがうんと小さいときは、持参した離乳食を与え、少し大きくなったら、バラ売りのカッパ巻きやかんぴょう巻きを買った。レストランのようにシェアする必要もないから、大人は辛いものも、酸っぱいものも、自由に選ぶ。
都心のデパ地下は、とにかくスペシャルにおいしいものがなんでも揃っているから、ここぞとばかりにちょっと贅沢な料亭の弁当を買ってみたり、催事コーナーで地方の味を楽しむのもいい。

もう子どもたちもすっかり大きくなり、どんな店にも行けるはずなのに、銀座に出かけたこの日、娘から出たリクエストは「屋上でシウマイ弁当」だった。
崎陽軒のシウマイ弁当。どこでも売っているし、なんなら近所の駅ビルにもある。でも、屋上で食べるのがおいしいのだと彼女は言う。うんうん、わかるよ、その気持ち。

いつの間にか、息子も一人前を買うようになった。4種類、バラバラの弁当。ふだんは「家族は同じものを食べて家族になるのだ」というわたしも、ここではバラバラが楽しいし、うれしい。「それ、ひとくちちょうだい」「シウマイとかまぼこ交換しよう」と、遠足みたいなハレの気分になる。

わたしは、ひさしぶりに日本橋弁松総本店の並六。ここは江戸っ子らしい、甘く濃いめの味つけで白飯がぐいぐい進む。家でもよそでも、なかなか出会えない味は、たまに無性に食べたくなる。
息子はまい泉のカツサンド(カツ重とたっぷり迷った末に)、夫は催事で佐賀の炙り鶏だし巻き弁当、そして娘はシウマイ弁当。

11月とは思えない陽気のもと、銀座三越の芝生には国も年齢も、さまざまな人がにぎやかに集っていた。

わたしたち家族は、芝生を囲むようにつくられたベンチに並んで腰掛けて、娘くらいの女の子ふたりが軽やかに側転の練習をしているのを見ながら弁当を食べた。

「ナミロクシロ」は、並六・白飯のこと。ほかに赤飯やたこ飯もある。


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