変化するガストロノミー、料理も文化もまるごと味わう
●はじめに
ガストロノミーという言葉をよく聞くようになったけど、ガストロノミーってどういうことなんだろう。ガストロノミーという響きがかっこよすぎて高貴でキラキラとした敷居の高い料理ばかりが頭に浮かびますが、一方で家庭料理も地元のおばちゃんがつくる食事もガストロノミーだ。
ガストロノミーとは一部のフーディ―な人たちだけのものではなくみんなのもの。あの北欧の美食を代表する美食レストランのキング「noma」は、コロナ渦の中で美食を皇族から大衆のものへと解放させている。これまではコース料理を提供していたがファストフードとして馴染み深いハンバーガーの提供も始めた。(forbes調べ)やはりガストロノミーというものは毎食の母のごはんくらい身近なものだって含まれるのだろう。そもそもガストロノミーって何なのか、そしてガストロノミーの流れについて書きます。
●ガストロノミーとは
高級フレンチも庶民的フードも包含してしまう幅広い概念なので、まずはガストロノミーの語訳を知る必要がある。ガストロノミーという言葉はフランスの書籍「美味礼讃」で提唱されて広がった。
「美味礼賛」によると、
ガストロノミー(gastoronomie)はgastro「胃袋」と nomie「規範」から作られた複合語。ガストロノーム(gastoronome)は人を指す。
ガストロノミーは「美食学」という理論であり文化と料理の関係を考察すること。腹を満たすだけじゃなくて心や知的好奇心を満たすことこそが美食だ、と言われている。美食は芸術や学術と文化的な領域(物理学、数学、化学、生物学、地質学、農学、人類学、歴史学、哲学、心理学、社会学など)が関わるもの。
つまり、食べることは「ただ食べる」生理的なものだけでも「ただ満たす」快楽的なことだけでもない。精神的にも学問的にも高度なものに昇華されたもの。ガストロノミーの語源について知るまでは高貴なものだと思っていたので、ガストロノミーとは文化と料理をつなぐものだったと分かったとき衝撃の稲妻をくらった記憶がある。
フランスではガストロノミーは共食であることが条件だという研究がある。「食の快楽」と「食卓の快楽」が区別されていて、「食の快楽は人間と動物に共通のもので、空腹とそれを満たすものがあればことたりる」に対して「食卓の快楽は人間だけにあるのもので、料理の準備だとか、場所の選択だとか、会食者の招待だとか、食事以前のさまざまな気遣いが前提になる」。共食であってもそうでないとしても、ただ食べることの快楽的おいしさではなく、誰と食べるのかという外部の環境に左右されるのだ。
●ガストロノミーの取り組み
ガストロノミーへの注目がされ続ける中で、食の背景にある文化を料理として表現する人や店や概念が続々と増えている印象を受けている。
・ローカルガストロノミー
「ローカルガストロノミー」とは新潟の株式会社自遊人が提唱した造語で、「風土と歴史、文化を料理に表現すること」。地域に伝わる歴史や文化、食材を活用して料理に反映させること。ただただ地域の食材を使って料理するだけでなく、「そのとき限り」の唯一無二な食体験だ。そこにある食文化や地域の風景、その土地で人々がどう暮らしてきたのか、そういった物語が料理を通して伝わることは、ただ腹を満たすだけではない満腹感と充足感に繋がると思う。
・北欧のレストラン「noma」
北欧の美食レストランでありベストレストラン50で1位を取ったようにベストレストランの上位にラインナップする新星にしてレジェンドなレストラン。北欧の食文化に旋風を巻き起こした。週刊Diamondによると、
もともと北欧料理は伝統的な食文化は薄く、美食とは縁遠い土地だった。料理への執着心も薄く出回っていた食料は、缶詰、粉末のマッシュポテト、ブイヨンキューブ、ソース用の着色料、冷凍食品などだったという。
シェフ長のレネ・レゼピ氏は新しい北欧料理を宣言するべく10カ条を掲げた。「私たちの地域を思い起こさせる、純粋さ、新鮮さ、シンプルさ、道徳を表現すること」「自給自足されてきたローカルな食材を高品質な地方産品に」「消費者、料理人、生産者、小売、研究者、政治家などが協同して北欧の国々に利益を生み出す」などだ。
nomaは強烈的に地域の食材を使用することにこだわった。nomaが蟻(アリ)を料理に使用したことは話題を呼んでいたが、一体なぜ食べることを躊躇してしまいそうな蟻をトッピングとして使用するのだろうか。北欧ではレモンのような柑橘類が手に入らないから、これが答えだそう。柑橘類が含む酸味の代用として、蟻が持つ酸味で調味している。虫を食べる食文化があったという歴史も後押しとなったようだが、レモンがないから蟻を使うという選択は波ならない信念がなければできないと思う。(ただ昆虫食を食べることについては考えたい)
このように、食文化が乏しいという制約の中からも今や世界から注目されるまでに食文化を変えた。今やどこに行っても同じ食事が食べれる世の中。食べ物の個性に色がなくて一色だなと感じる時虚しさを感じる。世界にはもっと色があるはずだ。同じじゃ面白くない。求めるものは、らしさや個性。だからこそそこにしかない味に惹かれる。
・料理と自然が共存すること
バスクで開催される「サン・セバスティアン・ガストロノミカ」のように料理界でもサステナビリティがますます着目されるようになってる。このイベントのように、シェフは地球環境を踏まえて料理をすることに精力的だ。
それを最新のテクノロジーや調理科学を積極的に融合させる流れも見られる。
その時々の世の中で起きている流れが料理に反映される。世界のシェフたちは食や世界で起きていることについてきちんと知った上で料理を作るべきだと、行動を起こし料理のスタイルを変化させ続けることに対して明るい希望を感じる。
●料理と文化を結ぶもの
ガストロノミーとは料理と文化を結ぶもの。郷土料理はその土地の食文化のDNAが流れていて、家庭の食事は母や家族の好みと愛情の選りすぐりの鏡、シェフの手に掛かれば繊細で芸術的な料理へと昇華される。なぜその料理なのかという背景があってかつ学問的考察ができる料理はガストロノミーと言えるのではないか。
食べ物を生産することで精一杯だった時代から、日々の食事は心配なく食べれる世界へと進歩しつつあるからこそ、ただ腹を満たすだけじゃなくて背景も味わうというアート的思想が生まれてきていると思う。ただ食べるだけではなく、ただただ高貴な料理なのではなく、ガストロノミーという語源のように、背景にある文化や食にまつわる学問をまるごと味わうことによって食事がより豊かになるのならば増えてほしい。そのためにガストロノミーに着目すると良いと思う。料理のその後ろにある背景や、紐解くことで見えてくる奥深い世界をもっと味わっていきたい。
参考資料▽
GakujutsuKenkyu_Jinbun_66_18.pdfGakujutsuKenkyu_Jinbun_66_18.pdf
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