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報酬から源泉された所得税を取り戻す③旅費との関係


立て替えた「旅費」の精算

 第1号(原稿料、講演料等)、2号(弁護士報酬等)および4号~7号の報酬については、謝礼、賞金、研究費、取材費、車賃、記念品代、酒こう料などの名義で支払われるもののうち、報酬等の性質を有するものは源泉徴収の対象とするルールになっています。
 そのため、報酬とともに受け取る旅費交通費も、原則として、源泉所得税が徴収されます。

 ただし、第1号、2号、4号、5号の報酬の支払者が交通機関、ホテル、旅館等に旅費を直接支払い、かつ、通常必要であると認められる範囲内の金額であれば源泉徴収をしなくてもよいこととなっています。

 その一方で、相手方(個人事業主)がいったん立て替えて旅費を支払い、その領収書と引換えに、報酬の受取時に実費精算をするというケースでも、所得税の源泉徴収が必要になります。
 報酬の支払者が直接交通機関、ホテル等に旅費を支払っていない場合は、その後、実額より多めに受取人へ支払うこともあり得るので、その分の収入を捕捉できないことに備えて所得税を徴収しますよ、ということですね。

 しかし、立て替えて支払ったタクシー代やホテル代の実費分の返金を受けるだけならば利益は生じません。それなのに、実費精算の支払額に対して源泉所得税が課税されるというのはナンセンスだと思いませんか?


<所得税の源泉徴収対象となる報酬の区分と内容>
1号
 原稿料、講演料、デザイン料、著作権使用料、翻訳・通訳料等の報酬
2号  弁護士、公認会計士、税理士、社会保険労務士、司法書士等の報酬
3号 社会保険診療報酬
4号 プロスポーツ選手、モデル、外交員、集金人等の業務に関する報酬
5号 映画、音楽またはラジオ、テレビ放送の出演や演出または企画の報酬6号 ホステス、コンパニオン等の業務に関する報酬
7号 プロスポーツ選手等の専属契約によって一時に支払われる契約金
8号 事業の広告宣伝のための賞金、馬主に支払われる競馬の賞金等



実務で見受けられる方法

 あくまで実費精算で支払う立替旅費であれば相手方の収入ではないので、源泉徴収の対象とするのは取引実態に合いません。
 そこで、税務署へ提出する「報酬等の支払調書(法定調書)」において、旅費交通費の支払額とともに源泉徴収税額0円を合わせて記載することで、支払いの事実を報告するという実務対応も見受けられます。 

 なお、実費ではない旅費見合いの額10万円を支給するといった場合には、当然ながら報酬に含めて源泉徴収することになります。


税務署に対する「支払調書」の提出範囲

 「報酬等の支払調書」「給与所得の源泉徴収票(給与支払報告書)」などの律でまっている支払調書(法定調書)は、受取側の所得を捕捉するという意味合いを持っており、支払金額が少額なものは提出不要です。
 「報酬等の支払調書」の提出範囲は、年間5万円以上の報酬を支払う相手先とされています。法人に支払う報酬は所得税の源泉徴収の対象外ですが、報酬額と源泉徴収税額0円と記載した支払調書を提出する必要があります。

 
 なお「給与所得の源泉徴収票(受給者交付用)」は会社から全受給者への交付義務がありますが、「報酬等の支払調書」については支払者から受取人への交付義務はありません
 厚意で「報酬等の支払調書」を交付する、あるいは、お互いの確認という意味で相手方に交付する支払者も多いようです。しかし、受取人への交付は義務でないので、受取人側で報酬額と源泉徴収税額の記録を取っておく必要があります。


法人への報酬支払は事務作業が楽

 上記のように、個人事業者への報酬支払いは源泉徴収が必要となるうえ、取引開始時に本人確認をしたのちにマイナンバー(個人番号)の預かりと厳重な保管が必要になります。
 法人に支払う報酬等であれば源泉徴収の必要がなく事務作業が軽減され、法人番号は国税庁のウェブサイトで誰もが確認できるオープンなものです。
 この点からは、報酬等の支払者側にとって法人との取引が楽といえます。

 

インボイス導入後は「旅費込み」で

 「インボイス制度」が始まる2023年10月1日以後の役務提供分より、報酬の支払者側の仕入税額控除(注)の要件として、受取側の登録番号、税率、消費税額等を記載した「適格請求書」の交付が要件となります。
 さらに、相手方が立て替えて支払った旅費について、仕入税額控除を行うためには「立替金精算書」の保存も必要となります。
 報酬の支払者が直接交通機関、ホテル等に旅費を支払っていない場合は、報酬の受取人側が立て替えて旅費を支払ったという証明が必要なのです。

 インボイス制度の下では、報酬とともに立替旅費の精算を行う場合には、支払側と受取側のいずれも事務処理が増えてしまいます。
 講演料などは「旅費交通費込みで、講演料○△円」という形での受託が、双方ともに事務作業が軽減されて合理的といえます。
 支払方法について変更が可能であれば、契約の見直しはいかがでしょうか。。

(注)仕入税額控除 ・・・ 消費税の原則課税において、課税売上で仮に受け取った消費税額(=仮受消費税等)から、課税仕入で仮に支払った消費税額(=仮払消費税等)を控除して納付すべき消費税額を計算すること
 

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