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第5章 採算管理と損益分岐点分析

6.「損益分岐点図表」が表わす企業体質



 3つの線で描く「損益分岐点図表」


 前回は、限界利益と固定費の2本の線で描く損益分岐点図表を見ました。続いて、変動費と固定費そして売上高の3つの線で描いてみましょう。

 今回はヨコ軸に売上高、タテ軸に費用と利益の合計額の目盛りを付けて、正方形にて損益分岐点図表を描きます。 

 損益計算の基本算式は「売上高-費用=利益」でしたね。ということは、「売上高=費用+利益」であり、売上高は費用と利益の合計と同額である、つまり、ヨコ軸(売上高)とタテ軸(費用+利益)はつねに同額です。

 そこで、損益分岐点図表を正方形で描く場合には、斜め45度の右上がりの線を引いて左右を2分割します。この右上がりの線は売上高ラインであり、費用と利益の合計額でもあります。

損益分岐点は左下にある方が良い!


   
 固定費は売上高の増減に関わりなく発生するので、横一本線を引きます。
この固定費ラインの高さは、固定費の負担の大きさを表します。

 売上高ゼロのときは固定費のみで変動費は発生しないので、変動費の線は固定費の高さからスタートして、斜め右上がりの線を引きます。
 変動費の右上がりの線の傾きが変動費率の高さを表わします。
変動費の線は固定費を含んでいるため総費用ラインともいいます。

 
 売上高ラインと総費用ラインが交わる点が、損益分岐点(BEP)であり、損益分岐点(BEP)は左下にあるほど利益が出やすい会社といえます。

 そして現状の売上高から見た損益分岐点の位置である「損益分岐点比率」は低いほうが良いということになります。
 損益分岐点比率が70%の会社は売上高が30%低下しなければ赤字に転落しない余裕があるが、損益分岐点比率が90%の会社は売上高が10%低下すると赤字に転落してしまう余裕がない会社となります。

 損益分岐点は、現状の売上高から見て遠く離れたところにある、つまり、左下にある方が良いことになります。


損益分岐点図表と企業体質


 損益分岐点図表では、
(1)固定費ラインの高さ
(2)変動費の線(=総費用ライン)の傾きの高さ
(3)BEPの両サイド(売上高ラインと総費用ラインが交わる三角形)の広がり具合、という3つの点に注目します。


損益分岐点図表が表わす企業体質

 


 丙社は、固定費ラインが高いことにより損益分岐点の位置が右上にあり、かなり頑張って売上高を稼がなければ利益を残せません。
 自社で製造設備を所有する製造業、地代家賃や給料など販売管理費の負担が重い会社は固定費が大きくなります。

 変動費の線(=総費用ライン)の傾きは、変動費率の高さを表します。
総費用ラインが右上がりに急な傾きを示す会社は変動費率が高く、反対に、総費用ラインの傾きが低い会社は変動費率が低いことを意味します。
 変動費率が高い会社は単位当たりの変動費の見直しが必要となります。
 たとえば、取扱商品の原価率が高い、製品の製造原価のうち1個当たりの材料費あるいは外注加工費の比率などをチェックします。


 総費用ラインと売上高ラインの乖離、言い換えると、2つの線が交わる三角形の面積の広がり具合は、リスクとリターンの大きさを表します。

 たとえば、乙社丁社を比較してみましょう。
 三角形の面積の広がりが大きい乙社は、損益分岐点を超えると利益が急激に増える反面、損益分岐点を下回ってしまうと赤字幅がどんどん膨らんでしまうリスクを抱えた会社です。

 反対に、三角形の広がりが小さい丁社は、損益分岐点を超えてもそれほど多額の利益を計上できないものの、損益分岐点を下回っても赤字の痛手は少なく済みます。
 「こんな儲からない商売は興味ない」という社長も居られるでしょうが、ある意味、不況抵抗力のある会社といえます。

 上記4社のなかでは、当然ながら、損益分岐点の位置が左下にある甲社が利益が残りやすい、理想型企業であるといえます。固定費ラインが低めで、総費用ラインの傾きも抑えられていますね。


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