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ライブで心ととのう

10月12日。
待ちに待った、大好きなバンドZIONのライブの日。北海道を拠点に活動している5人組が大阪にやって来る。

ライブの日は幸い仕事が休みだったが、思いっ切り余韻に浸れるように次の日も有休を取った。それぐらい心待ちにしていた。

前回、はじめてZIONのライブに行ったのが2月。

それから半年とちょっとの間に母親が亡くなり、それからの生活の変化とか、これからの不安とか、じわじわといろいろなことに押しつぶされそうになって、なんか疲れたな…という日々を過ごしていた。

特に最近は時期的な問題もあってなかなかに情緒不安定で、ただただこのライブを目指して生きていたと言ってもいい。けっこうやべぇ精神状態でライブの日を迎えそうだけど大丈夫かな…とちょっと心配していた。

でも、いざ当日になれば、そんな心配はどっかに行った。

「今日会えるんだ!」思うと、なんだか無性にドキドキして、その日は朝から妙に浮足立っていた。好きな人とデートに行く前ってこんな感じだっけ…と、もう長らくご無沙汰で忘れかかっている感覚を思い出しながら会場に向かう。

物販では予定通り散財した。でも、こんなに良いお金の使い方も他にないと思うから、「散財」という言い方は間違っている気もする。

買ったグッズをさっそく身につけて、しばらく時間をつぶして、再び会場に。あとは開演を待つのみだ。

前回のライブで完全に心をつかまれてしまったベース側にちゃっかりスタンバイ。

最初はKindleで『モモ』を読みながら待ってみたが、ドキドキとソワソワで何も入ってこなくなったので、おとなしく会場のBGMを聴きながら待った。

そしてついに開演。

ライブが始まるやいなや、わたしはステージ上の彼らをガン見しては、かっこよすぎて直視できなくなって違うところに視線をやるという珍現象にひとりもだえていた。何やってんだわたし。

…と、どあほうなわたしは置いといて。

そんなことより、ライブ中はずっと心を揺さぶられっぱなしだった。

なんというか、いろんな感情の引き出しを開けてもらったような心地だった。

とても盛り上がって、嬉しくて楽しくてぴょんぴょんしたり左右に揺れたり。そうかと思ったら、悲しさとか切なさをすくい上げられたようでしみじみして思わず涙が出たり。悔しさとか、覚悟とか、奮い立たされるものもあったり。

いつも思考が邪魔をして出てこられなかった感情が、揺さぶられて丸ごと出てきたような。どこかに閉じ込められていた感情が、いとも簡単に扉を開いて出てきたような。そんな感じがした。

前からある曲は、音源でもう何度も何度も聴いてよく知っているはずなのに、この曲でこんな気持ちになることあったっけ?と、いつもとは違う感情を引き出された。

それぐらいアレンジが効いていて、音源ももちろん大好きだが、この人たちの曲はライブで聴かないとだめだなと思わされた。

ボーカルご本人も途中で、次の曲は新曲じゃないけど音源通りにやるつもりもないと言っていて、「ですよね~」と思いつつ、「そもそも音源通りじゃないのその曲だけじゃねぇやん」と心の中でつっこんでいた。

そして、この音源と違うアレンジがこれまた良くて、「うわぁ…めっちゃ好きだ…」となる。「惚れ直す」というやつだ。

一方で、新曲は聴いたことないはずなのに、なんだか前から知っていたみたいにスッと入ってきた。行ったこともない場所なのに懐かしいと感じるのに似ている気がする。

新曲はまだレコーディングをしていなくて、ライブでの感触とかを見ながら、これから形にしていくらしい。この日にはじめましてだった曲たちが、次に会うときにどんなふうに進化しているのか楽しみになった。

前からある曲はよく知っているのに知らない曲のようで。新曲は知らない曲なのに前から知っていたみたい。そういう不思議な感覚を味わった。

あと、とても印象に残っているのが、各所に入るやさしいコーラスと、語りかけるように歌われた "It's all right. Here cmes the sun'n'joy." ということば。

聴いていると、「大丈夫さ」ってそっと頭をなでられているような、やさしく包み込まれたような気持ちになって、心がじんわり温まった。


そんなこんなであっという間の約1時間半。

いろいろな気持ちが引き出された果てに、余計なものが全て削ぎ落とされた、純粋な自分の心がそこにあった。

心がぽかぽかして、そしてすっきりした気持ちだった。この日までのぐちゃぐちゃから解き放たれたような心地がした。

そして、生きててよかったなと。ふとそう思っている自分がいた。
それは大げさなものでなくて、とてもシンプルに。

これが「ととのう」というやつなんだろうか。
サウナーじゃないからよく分からないけど。
でも、たぶんそんな気がする。


ライブが終わってからは、ずぶずぶに余韻に浸っている。浸るどころか溺れてない?ぐらいに余韻がえぐい。次の日を有休にしたのは本当に賢明だったと思う。よくやった、過去のわたし。

とはいえ、残念ながら週明けにはまたいつも通りの日々がやってくる。

わたしのことだから、どうせまたこれからも、くだらないことで悩んだり迷ったり落ち込んだりしながら生きていくんだろう。ととのった心も、日常に揉まれていれば、また不安定にもなっていくだろう。

それでも、このライブを思いだしたり、また会える日(実はそう遠くない)に思いをはせたりしていれば、きっとなんとかなる。今はそんな気がしている。

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