4.RIP SLYME/TOKYO CLASSIC

4.TOKYO CLASSIC/RIP SLYME

楽しいラップ、貴方はどこから?
私はRIP SLYMEから。



中学一年生の冬。2月。
バレー部の練習中に足首を骨折したぼくは、入院を余儀なくされた。

陰キャで人見知りの中学一年生が、いきなり知らないオジサン達と同室へと放り込まれ、日がな一日する事も無く部活仲間が持ってきてくれた漫画(真島ヒロ先生の「RAVE」)を何度も何度も読み返す日々。

そんなある日、何気なく観ていた「笑っていいとも」のテレフォンショッキングに、知らない兄さん達が出てきたのである。
どうやらミュージシャンらしいが、見たことも聞いたこともない人たち、ただ彼らが今度出すシングルのジャケットが面白かった。

彼らの名前はRIP SLYME、今度出すシングルは「FUNKASTIC」というそうだ。

デカデカと描かれた便器のジャケも面白かったが、男子用と女子用の2バージョンが出るというのもユニークだった。(ぼくはこの時初めて男女で便器の形状が違う事を知った)


そんなどうでも良いところだけを記憶したまま退院したある日、スペースシャワーTVを観ていると、何だか楽しげなPVが流れて来たのだ。
それこそがまさに「FUNKASTIC」である。

これかぁ!と驚いたぼくは、親に頼んでTSUTAYAへ赴き、すかさず「FUNKASTIC」を買いに走った。(松葉杖で)

当時はラップもヒップホップも知らなかったぼくは、初めて聴く変な音楽に夢中になった。
よくよく考えれば去年同級生達が歌っていた「それーぞれーひとつライフ ひとつのライフをいぇーいぇー」という曲が「One」というタイトルだということも、この頃やっと知った。


そんな中、あの名曲「楽園ベイベー」がリリースされ、そのひと月後には日本ラップ史に残る名盤「TOKYO CLASSIC」がリリースされたのである。

アルバム全体を見渡せば、RIP SLYME特有の陽性でゴージャスな楽曲が多く、メンバーのソロ曲が多いのも特徴的なアルバムである。
特にRYO-Zのソロである「Case.2.MANNISH BOY(続zeekのテーマ)」は伝説のブルースマン、マディ・ウォーターズの名曲をそのまんまカバーした楽曲となっているのが面白い。

ソロ曲が多いのもあって楽曲のバラエティも非常に豊富で、シンプルな「BY THE WAY」、タイトル通りレトロな雰囲気の「TOKYO CLASSIC」、ラテン調の「楽園ベイベー」と前半から様々なタイプの楽曲が並んでいる。

ゴージャスでハイテンションな「FUNKASTIC」、シンガーソングライター森広隆氏を招いて作った「奇跡の森」とファンキーなナンバーが続き、90年代ヒップホップ風味な「Case3.スーマンシップDEモッコリ」「Case4.Bring Your Style(夜の森)」が続く。

ここまで聴いて驚くのは作曲を主に担っているDJ FUMIYAの幅広い音楽性と大胆さである。
この時点で既にポップなメジャー派とハーコー志向なアングラ派の軋轢があったはずだが、それらをものともしないトラックの数々は、元々ダンサー集団であるというRIP SLYMEのバックボーンを加味しても大胆すぎると思う。


続く「One」も大ヒットシングルである。
印象的なアコギフレーズも今聴けばかなりクリアでブライトに感じるが、そこから生まれる爽やかさが温かな歌詞と相まって必要以上にウェットにならないバランスになっている。
やはりDJ FUMIYAの才能に舌を巻く。

余談だが、この曲に参加しているベーシスト・ナスノミツル氏について調べてみたら、大友良英や灰野敬二、吉田達也など、日本のエクスペリメンタル・ノイズ界隈の人らしく、流石に少し驚いた。ぼくも大友良英さんはたまに聴く。


続く「バンザイ」はラテンパーカッションを用いたスプーキーな曲で、しっとりしがちな「One」を後を担う曲としてちょうど良い塩梅。
意外とRIP SLYMEなりの照れ隠しだったのかも知れない。


最後はセンチメンタルな「花火」で終わるのも何だか東京っぽくて(?)良いと思う。
祭りの後のような寂寥感と静かな高揚感が、心地よくリスナーを包んでくれる。

ここまでを振り返ってみれば、確かに夏祭りのような楽しさと過ぎゆく季節に対する寂しさを感じさせるよいアルバムであったと思う。
あの夏、中学二年生という多感な時期にこのアルバムに出会えた事は、思っている以上に幸福だったのかも知れない。

最後に収録されているのは、1曲目「introduction - CHIKEN」でも演奏を披露してくれたBreakestraとコラボした「FUNKASTIC」のリミックスである。

更にゴージャス感を増した「FUNKASTIC」を心ゆくまで堪能して欲しい。


その後の彼ら、そして国産ラップの大躍進は皆ご存知の事と思う。
メジャーシーンを席巻したポップなラップと、それに対抗するように気炎を吐くアングラ派のバチバチのバトルが、現在の国産ヒップホップの姿を形作ったといっても過言では無いのかも知れない。

日本語ラップの立役者の1組、RIP SLYMEの名盤を今一度改めて聴いてみて欲しい。
ヒップホップファンもそれ以外も、ポップなラップが好きな人も、ホンモノが好きなハーコー派も、意外な発見があるかも知れない。

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