瓶底眼鏡から裸眼生活になりました〜ICL手術体験記③手術当日

  ICL手術体験記、今回はいよいよ手術のお話です。
   術中の様子について、マイルドですがしっかり書きます。痛そうな描写が苦手な人は今回は読まずに次回の更新をお待ちください。



 今年の北海道はドカ雪が続き、公共交通機関が麻痺して移動だけで大変な毎日でした。
 手術を受けたのはそんな雪深い日のことです。
 予約時に処方された抗生剤を目薬を、手術4日前から1日4回点眼します。病院には指定された時間に向かいます。
    当日は不思議なほど冷静な気持ちで病院に到着しました。
    予約から手術まで二ヶ月近く間が空きましたが、手術の日が近づいてくるにつれ日増しに緊張が強くなっていました。緊張を和らげるためにお酒を飲んだり美味しいものを食べたり……自分で望んで決めたことですが、やっぱり手術をすると思うと平静ではいられなくなるものです。
    手術時はもちろん麻酔をしますが、それはあくまで点眼の部分麻酔。術中はずっと意識があります。目を手術するということは瞬きができないように瞼を固定されるので、術中の様子が嫌でも見えてしまうのです。
    私が今まで経験した麻酔は、全身麻酔と胃カメラの鎮静剤のみ。ぼんやりする系の鎮静剤は効果がなくひたすら苦しかった思い出があり、全身麻酔は導入の時点でスコンと落ちたためまったく記憶がないという両極端な状態。
    今回の手術では希望者に笑気ガスの麻酔を使ってくれるのですが、笑気ガスの経験がないためどれほどの効果があるかわからない。知り合いに片っ端から質問して「酔っているような感覚になる」「うとうとしている間に終わった」という話を聞いていました……が、怖いものは怖い!
    不安で何も手につかず、料理の作り置きや家の掃除で日々を過ごしていました。平静ではいられない日々を過ごしていたからこそ、当日の落ち着きは自分でも驚いたのです。

 コンタクトレンズの使用は手術前日まで可能ですが、当日は眼鏡です。病院の受付を済ませると最後の検査を受け、術後1週間かけっぱなしになる保護眼鏡を購入します。ピンクや水色などお洒落な色からサングラスのようなグレーもあり、私はノーマルな透明を購入しました。
 その後、散瞳剤を点眼して瞳孔を広げていく段階に入ります。効果が出るのに時間がかかるため、その間に術後服用する抗生剤や点眼の説明を受けます。薬が効いて視界がぼんやりするとスマホをいじってもうまく見えなくなり、時間が経つのが長く感じている頃に、手術を行うフロアに呼ばれました。
 案内された休憩室では、手術を受ける人・終わった人がひとりずつカーテンで仕切られています。カーテンの中にはリクライニング式の椅子があり、荷物は同じ部屋にある鍵付きのロッカーへ。一日にたくさんの人が手術を受けるため、いま何番目なのでもうすぐですよ~と教えてもらいながら手術着に着替えます。当日は着てきた服の上から羽織るタイプですが、頭にシャワーキャップのようなものをかぶり、髪の毛などが入らないように支度しているうちにじわじわと手術の実感が沸いてきます。
    ……なんか、手術っぽいぞ。
 順番が進み、名前を呼ばれていよいよ手術室へ。この時点で眼鏡を外しているので視界はぼんやりとしていますが、部屋の真ん中に手術用の椅子や大きなライト、心電図モニターなどがあるのが見えました。目の手術は椅子に座って、リクライニングを倒して顔が上を向くようにします。椅子に座ると左手の指にパルスオキシメーター、右腕に血圧計、胸に心電図のパッドを次々と装着されます。
 あれっ、部分麻酔でもこんなに装備つけるんだな。
 椅子が倒れると、鼻に酸素チューブを装着します。ここから笑気ガスが出るため、手術中は鼻から息を吸うのが必須です。さらに両目のところだけ穴の空いた布を被せられ、両方のまぶたが開いたままになるよう上下をテープで留めてしまいます。目のまわりをしっかり消毒。麻酔の点眼をしながら、右目に開眼機を装着し、左目が乾かないようにガーゼのようなもので保護します。
 執刀医の院長先生と軽くお話をしつつ、「真上にライトがあるでしょ? 3カ所あるライトの真ん中をまっすぐ見ていてくださいね」と言われ、いよいよ手術が始まりました。
 レーシックの手術を受けた知り合いからは「手術は怖かったけどレーザーのライトが眩しかった」と聞いていました。ICL手術もレーザーで切開すると思っていたのですが……。
    おかしいな、レーザーの気配がまったくない。
 裸眼のため視界はぼんやりしており、さらに目は麻酔や消毒液で満たされているため、見える世界はずっとぼんやりしています。
 しかし、目に近づいてくる何かは見えるのです。
   何か細長い金属が近づいてくる……もしかしてメスかな……あれっ、麻酔してても目を切開する感覚は残ってるの?
    先生が時間と処置について読み上げます。手術中の記録です。テレビの手術シーンでよく見る、あれです。
    ……え、この手術って全部手作業なの!?
 と気づいた瞬間、鼻で大きく酸素と笑気ガスを吸います。が、いつまで経っても「酔っているような感じ」にも「うとうとしている感じ」にもならない。意識は鮮明。近づいてくるメスも、切開する感覚もわかります。
「レンズを入れていきますね~」とともに器具を挿入する感じも、わかる!
 ICLレンズは小さくまるめて挿入したあと目の中で広げていきます。その間の作業なのか、目の奥を細長いなにかでぐりぐりします。痛みはなくてもぐりぐりしている感覚はある。圧迫感。痛いと言いたいけど、ここで完全に息を止めてしまいます。恐怖で身体がこわばって声が出ません。
    だっていま、目の中を、いじられているのだもの。
    自分でも触ったことのないようなところを(たぶん水晶体のあたり)をいじられる感覚……怖い!
 ぐりぐりぐりぐり……ちょっと動いたら目の中が破れちゃいそう
 ぐりぐりぐりぐり……怖いよ、痛いよ、怖い
    ぐりぐりぐりぐり……先生だめだ〜怖いよ〜一回やめようよ~
 もう無理だよ~怖いよ~もう嫌だよもうやめたいよ~と心の中で悲鳴を上げているうちに、ぐりぐりは終わり。
「はい、上を見てください~」と指示があり、さらに目の中をいじる感覚があります。歯医者さんの処置と同じで、感覚はあるけどなにをしているのかはわからない。でも感覚はある。目の中をなにかでどうにかしている。
 最後にまた細長いなにかが近づいてくる……! と思ったら、目やまぶたに注射をして終了でした。「右目終わりましたからね~」と言われ、手術前はぼんやりしていたライトがはっきり見えたのがわかりました。
 時間にすると数分のこと。けれど、長い長い恐怖の時間です。
 右目が終わってもまだ左目が残っている。
    またあの近づいてくるメスや切開の感覚が待っている。
    また同じことをしなければならない。
    だめだ、怖い。
 先生、もう右目だけでいいです……叫びたいところだけど、手術は淡々と進みます。下手に声を出すと余計な時間がかかる気がして、なんとか笑気ガスの効果がないかと鼻で息を吸いに吸う。ほんともう、いつまで経っても、頭がぼんやりなんてしやしない!
 右目をガーゼで塞いだ後、次は左目の手術がはじまります。術式は右目と同じですが、手順を経験しているだけに左目の手術のほう長く感じました。
 メスで切開はまだ大丈夫。へえ〜そんなところを切るんだ。先生も「乱視が出ないように気を付けて切るからね」って言ってたし、なにか切開の角度で変わるのかな。
    レンズを入れるのもまだ我慢できる。はい何か奥まで来た……
    この、目の奥! ぐりぐりされるのは圧迫感があるし、やっぱり怖い……!
    怖い……!
 これを耐えれば手術は終わる。もう折り返しは過ぎている。あと少し頑張れば怖いのとオサラバ。
    でも、やっぱりぐりぐりの時間が一番怖い……!
 誰だよ笑気ガスでぼんやりするって言った人!
 誰だよライトで眩しくて何も見えないって言った人!!
 誰だよ麻酔するから痛くないって言った人!!!
 笑気ガスは効かないしライトの光は強くないから手順全部見えるし麻酔してても感覚はわかるし消毒液が染みて痛いよ!!!!
 ……と、心の中で叫び倒しているうちに「ぐりぐり」は終わり、レンズの固定に移ります。先生に上を見るよう指示されますが、恐怖と疲労で目が動かない。むしろ固定されているにも関わらず瞼を閉じたくて仕方ない。
「頑張って上見て……そう、頑張って!」と励まされながら、左目の手術が終わりました。
 両目合わせて20分もかからなかったはずです。でも、途方もなく長く、いままで生きてきた中で一番恐怖に満ちた時間でした。
 手術が終わると、先生が開眼機を外ししながら声をかけます。
「笑気ガスは効果あった?」
「全然、効かなかったです~」
 消毒液などと一緒に流れた液体に、間違いなく涙も混じっていたはずです。目のまわりをしっかり消毒し、顔全体を覆っていた布を外して先生がまた声をかけます。
「緊張してたくさん汗かいたんだね。風邪引かないようにね」
 手術中は「ぐりぐり」の時以外ずっと深呼吸をしていました。呼吸音から先生も緊張を感じ取っていたはずです。顔を拭ってもらい、ああ、これでようやく終わったのだと感じました。
「手術、ちゃんとできたからね」
「……怖かったです」
 そう言った私の声は涙で震えていました。

   続きます。

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