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すいすいこんぶの思い出


私が幼い頃、子どもが簡単に手に入れることができる花は、
空き地や石垣の隙間などによく見かけるピンクの花であった。
友だちとしゃがんでその花を集めている時に、友だちが

「すいすいこんぶ」


と言うのでその花の名前を知った。「かわいい花なのに、そんな可愛くない名前だなんて」とちょっとがっかりしたものだ。


ある時、一緒にすいすいこんぶを摘んでいた友だちが、何やら口を動かしている。
「何を食べているの?」
と聞くと
「これ」
と見せてくれたのが、すいすいこんぶの根の塊である。
友だちの口の動きとすいすいこんぶの根の感じが、
ずいぶん違うように思えたけれど、そう言うのだからそうなのだろう。
後でこっそりすいすいこんぶの根を食べてみた。
やはり、友だちのくちゃくちゃした口の動きにはならないし、
おいしくもない。
おかしいなぁ、と思いつつ、そのまま追求もしていない。
今思えば、きっとその友だちは根と一緒にガムでも持っていて、
私はそれに気づかなかったのだろう。



中学で中庭の掃除をしていた時に、一緒だった友だちが、
そこに咲いていたすいすいこんぶを

「ムラサキカタバミ」


と言い、初めて正式名称を知るのであった。
“すいすいこんぶ”でなくてよかった。

でも、”すいすいこんぶ”という名称はそれまで複数の友だちから聞いていたので、誰かの思いつきや思い込みの名ではないと思う。


今ではネットで物事を簡単に調べられるようになった。
ムラサキカタバミは
“酢漿草” (さくしょうそう)
ともよばれるそうで、この”酢”の文字が”すい”と読めなくもない。
「日本方言大辞典」にはカタバミには180種以上の地方名があるそうなので、
“すいすいこんぶ”も掲載されているかもしれない。


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