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元研究開発者の日々の情報:長崎大・森内氏「子どもにとってのCOVID-19」【第61回臨床ウイルス学会】(2020年11月29日号 )

新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の流行が世界的に問題となっている中、ウェブ上で開催されている第61回日本臨床ウイルス学会学術集会(10月2-31日)において、長崎大学大学院医歯薬学総合研究科小児科学教授の森内浩幸氏が「COVID-19と小児」をテーマに講演。

「子どもにCOVID-19は本当に少ないのか?」、「子どもは流行を広げているか?」、「子どもはなぜ重症化しないのか?」、「withコロナ時代の子どもで何が問題か?」の4つを軸に、現時点での知見の解釈や今後の展望について報告した。

SARS-CoV-2は「子どもにとっては基本的に風邪のウイルス」

森内氏は冒頭で、各国の新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)感染者の年齢分布のデータを示し、「世界でも18歳未満のSARS-CoV-2感染者の割合は少なく(米国1.7%、イタリア1.8%)、無症候性のことが多い」と述べた。

「日本においても20歳未満の感染者は割合も少なく、現時点での死亡例はない」ことを報告。子どもの感染者が少ないことの根拠として、子どもはSARS-CoV-2受容体であるアンジオテンシン変換酵素(ACE)2の発現度が有意に低いことを挙げた。ACE2の発現度は、感染のしやすさとの関連が報告されている。

 子どもにとってのSARS-CoV-2の危険性については、「15歳未満ではCOVID-19よりもインフルエンザ・肺炎の方が遥かにインパクトが大きく、さらにインパクトが大きいのがRSウイルスである」と述べ、より注意すべき既存の感染症があることを強調した。

2歳未満や基礎疾患を持つ子どもではSARS-CoV-2は重症化のリスクとなるが、それは風邪でも同様であり、SARS-CoV-2は「子どもにとっては基本的に風邪のウイルス」であると述べた。

SARS-CoV-2の今後の展望として森内氏は、「従来の、感冒の原因となるコロナウイルスも元々は新興ウイルスであり、おそらくSARS-CoV-2も風邪のウイルスとして定着するだろう」とした上で、「運が良ければ有効で安全なワクチンが開発されてワクチンによる集団免疫が確立し、運が悪ければ多くの犠牲者を出しながら長い年月をかけて集団免疫が確立する」と推測した。

子どもは流行を広げているか?――データの解釈には注意が必要

子どもがSARS-CoV-2の流行を広げているかという点については、現時点でさまざまな報告や報道がなされている。

SARS-CoV-2では、ウイルス量だけを例にとっても「発症後の日数」、「採取方法」、「症状の有無」など、さまざまな要因の影響を受ける。森内氏はSARS-CoV-2のデータの解釈には注意する必要があることを強調した。

 例えば、「子供は大人の10-100倍のウイルスを出している」という報告(JAMA Pediatr 2020; 174: 902-903)では、「解析対象から無症候性感染児を外しており、子どもの多くが無症候性であるという特性を考えると、無症候感染児も合わせて解析しないと実態は見えない」と指摘した。

また、「ICUで治療している重症成人患者より子どもは大量のウイルスを排泄している」という報告(J Pediatr DOI:10.1016/j.peds.2020.08.037)では、「実際に比較しているのは、感染したばかりの子どもと発症後数週間経た大人であり、SARS-CoV-2は年齢にかかわらず発症後、次第にウイルス量は減るので比較にはならず、論外」と森内氏は指摘した。

 森内氏は小児における感染経路について、「学校内での感染は小学校で2%、中学校で7%である一方、家庭内での感染の方がずっと多く小学生では75%、中学生では68%」という文部科学省のデータを示した。

その上で、「インフルエンザウイルスは子どもが流行の中心であり、学校での流行から家庭、社会に広がっていくのに対して、SARS-CoV-2では社会の中の流行から家庭内に持ち込まれ、子どもが感染するという逆の構図である」と考察した。

森内氏は今後の感染対策として、「地域によっては過剰とも言える対応を取っているところもあるが、ゼロリスクを求める非現実的な路線ではなく、バランスの取れた対応策を立てる必要がある」ことを強調した。

子どもはなぜ重症化しにくいのか?――医療的ケア児には注意が必要

子どもがSARS-CoV-2に感染しても重症化しにくい要因は、現時点でさまざまな仮説があるが、まだ結論は出ていない。

子どもが重症化しにくい要因の一つとして、「子どもでは重症化のリスク因子となる基礎疾患が少ない」ことが報告されている。

重症化リスクのある基礎疾患としては、肥満、高血圧、慢性閉塞性肺疾患(COPD)、糖尿病などが考えられているが、「このような基礎疾患が子どもに少ないのは間違いない」と述べた。

その一方で、森内氏は重症化リスクの高い基礎疾患を持つ医療的ケア児については、COVID-19は患児の家族や受け入れ施設には大きなインパクトがあり、「医療的ケア児は重症化リスクが高いだけではなく、社会的にもその管理が難しい」ことを指摘した。

さらに「もし受け入れ施設に感染が持ち込まれた場合、施設内流行のリスクは高く、その影響は甚大」とし、「医療的ケア児は年々増えており、withコロナ時代の課題の一つとなるだろう」とした。

また森内氏は、子どもにおける基礎疾患の中で、知的発達障害がリスク因子として見逃されていることを指摘。

知的発達障害児は身の回りの世話などで密に接する必要があり、感染リスクが高く、栄養障害、糖尿病などの内分泌代謝疾患、循環器疾患などの重症化のリスク因子が合併しやすいことが知られていて、「予後が良いとされる低年齢であっても、知的発達の遅れがあると致死率が高くなる傾向がある」とし、注意を促した。

川崎病と小児多系統炎症性症候群は類似しているか?

小児におけるCOVID-19と関連した疾患として、森内氏は小児多系統炎症性症候群を挙げた。小児多系統炎症性症候群は川崎病と類似した病態との報道もあるが、「臨床的に似ているところもあれば、違うところもあり、川崎病の診断基準を満たす症例は4割に満たない」と述べた。

小児多系統炎症性症候群の川崎病との相違点として、川崎病では乳幼児での発症が多い(発症年齢中間値:2.7歳)のに対し、小児多系統炎症性症候群では年長者に発症することが多く、発症年齢中間値は9.0歳となっている。

また、炎症性サイトカインマーカーや、心筋障害マーカー、血管内皮障害マーカーの異常は川崎病でも認めるが、小児多系統炎症性症候群では「その程度が非常に強い」という。小児多系統炎症性症候群の臨床症状としては、胃腸症状が強いことが特徴で、川崎病に見られる皮膚粘膜症状は必ずしも多くないという。

小児多系統炎症性症候群はCOVID-19の流行から1カ月程度遅れて発症が見られること、PCR検査陰性例、かつ抗体検査陽性例が多いことから、「SARS-CoV-2に感染後の回復期に生じる病態」と考えられるという。

川崎病と同様に、小児多系統炎症性症候群もまだはっきりとした原因は分かっていないが、「SARS-CoV-2の感染が誘因となっていると考えられる」と述べ、今後原因が解明されることを期待した。

心身両面に及ぶ間接的な健康被害が子どもに

最後に森内氏は、COVID-19が子どもたちに及ぼした影響と問題点について、健診、子供支援、予防接種の機会が失われたこと、家庭内暴力や虐待のリスクの増加、福祉の手が十分に及んでいないことなどを挙げ、「子どもにとってCOVID-19は風邪にすぎず、流行の中心でもないのに、流行のコントロールという錦の御旗の下、心身両面に及ぶ健康被害が間接的に起こっている」と述べた。「経済も大切だが、子どもたちのことも決していい加減にはしてはならない」として講演を締めくくった。

引用:m3.com編集部・末冨聡氏記事より引用


 
 
 
 
 

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