スーパー歌舞伎~前編~

突然ですが、皆さんは歌舞伎についてどのような印象をお持ちですか?

中学校などの音楽の時間、修学旅行の芸術鑑賞などを踏まえると”歌舞伎=古典芸能”と考えている人も少なくないと思います。しかし、実際のところ歌舞伎には「古典の継承」「新しいことの創造」の二つの観点から成り立ってきた歴史があるようです。

例えば、舞台が回ることでセットや場面そのものを変える”廻り舞台”、これを世界で初めて用いたのは歌舞伎でした。また”宙乗り”はワイヤーアクションの元祖といわれています。一方で、今日では映画館で歌舞伎を楽しめる「シネマ歌舞伎」というものもや、ジブリ映画の風の谷のナウシカを歌舞伎版にしたものをはじめとする「新作歌舞伎」というものも存在しています。

以上のことからも「古典の継承」「新しいことの創造」、二本の柱で成り立っていることが分かりますね。

伝統を保持しつつも新しいことに挑戦する歌舞伎とその時代の人々は、作り手と受け手、生産者と消費者として密接に関係しているのではないかと私は考えます。特にインターネット社会といわれる現代で起こった歌舞伎の変化、「新しいことの創造」の部分はSNSに慣れ芸能から遠ざかる私たち若者に向けたもののように感じられました。その中でも、今回取り上げる「スーパー歌舞伎」は超人気コンテンツとのコラボレーションや、歌舞伎には見られない今風の演出など、話題性という面で若者に向けて十分魅力的であると思います。

そこで、過去のインタビューなどから作り手側の意図を読み解くとともに、受け手になりえる私たち若者が「スーパー歌舞伎」や「歌舞伎」についてどのような印象を持っているのか、二つの視点から考えてみましょう。

前編では、まず予備知識としてのスーパー歌舞伎の成り立ちと、作り手の意識についてみていこうと思います。


スーパー歌舞伎の成り立ち

[スーパー歌舞伎の定義]

3代目市川猿之助が創始した新作歌舞伎の一形式。伝統的な技法を使いながら、最新の舞台機構や照明設備などを駆使して、歌舞伎を現代的な演劇として見直す試み。ーーーブリタニカ国際大百科事典より抜粋

スーパー歌舞伎とは1986年初演の「ヤマトタケル」から始まった、”伝統的な部分”と”現代的な取り組み”という二面性を兼ね備えた新作歌舞伎の一種です。当時の3代目市川猿之助が始めたスーパー歌舞伎は、現在まで続いており、2015年には4代目市川猿之助による超人気漫画「ワンピース」とのコラボレーションも行われています。その後も過去作の再演に伴い、演出もグレードアップされ、プロジェクションマッピングなどの最新技術も積極的に取り入れられています。従来の古典的な演目だからこそ若者にはとっつきにくかった歌舞伎が、スーパー歌舞伎の誕生によって現代的で親しみの持てるものに変化したことが、新たな観客層の導入と共に感じられます。

以下がこれまでの上演歴です。

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(2014年以降、スーパー歌舞伎がスーパー歌舞伎Ⅱ(セカンド)になったのは4代目市川猿之助が中心となり始めたからとのこと…!)


インタビューから読み解く、作り手の意識

演者兼演出も務める4代目市川猿之助さん、松竹株式会社代表取締役社長の追本淳一さん、お二人の過去のインタビューからスーパー歌舞伎を創っている側の方々がどのように考え何を大切にしているのかなど、読み解いていこうと思います。

(1)4代目 市川猿之助                        1975年生まれ東京都出身の俳優、歌舞伎役者で、2012年に2代目市川亀治郎改め4代目市川猿之助を襲名。2006年の大河ドラマ『風林火山』では準主演を務めるなど、幅広く活躍されています。

「新たな工夫をしようとして、いじりすぎてもダメ」「(王道を置きつつ)プラスアルファで何をするか。今年、ゆずの20周年ライブを見てまた刺激を受けました。最新の技術で映像を使った演出になると思います」「(ただ技術の進歩をどれだけ取り入れるか)そのパーセンテージが難しい」
スーパー歌舞伎Ⅱ『ワンピース』成功の要因を、「原作の持つ人気、スーパー歌舞伎が今まで築きあげてきた評価、若手の人気」と分析した猿之助は、歌舞伎が持つ様々な手法に加え、スーパー歌舞伎や自身がこれまで見てきた国内外の数々のステージの新しい発想や技術を取り入れつつも、「全部そうしてしまえばできるものを、アナログの部分も残しつつ、どこまで取り入れるか」が肝だったと言います。

インタビューを見ていく中で目に留まったのは、伝統的な部分とテクノロジー化する部分の”バランス”についてでした。確かに、台詞を現代の人にも分かりやすいような口語表現にしつつ、喋り方自体はあくまで伝統的なものであったり、最新技術を取り入れつつ、宙乗りなどの古典的な演出も欠かさない。個人的にスーパー歌舞伎は足し算のように新しいものをどんどん取り入れていくイメージだったのですが、やはり古典的な部分との塩梅は大事になってくるようです。

(2)松竹株式会社 追本淳一社長

2015年に『スーパー歌舞伎Ⅱ ワンピース』を最初に上演した時はかなりの批判を頂くかなと思ったのですが、コアなファンの方にも喜んでいただけました。孫に連れられておばあちゃんが一緒に来るとか、我々が「こういう方に、こういう風に見ていただきたいな」という理想の形が実現できました。客層は確実に広がっていますね。
歌舞伎と現代のテクノロジー・サブカルチャーとの融合については、どのような考えで進めているのでしょう。                  ネットでは代替できない他者では作れないコンテンツを我々は作っていく。そういう意味でも古典の歌舞伎は、薄めずにちゃんと古典のエキスとしてやり続けたい。しかし、新しい展開が必要なところでは色々な挑戦をします。

追本社長のインタビューを見ていてもやはり”バランス”の重要性を感じます。そして同時に、批判を受けることを承知で新しいことへの挑戦を恐れない姿勢を見ることができました。脈々と受け継がれている歌舞伎ですが、どの時代にも追本社長が語ったような”チャレンジしてくマインド”のようなものが存在していたのだろう、と考えさせられます。今後もどんな進化を遂げていくのか、楽しみですね!

これで前編はおしまいです。後編では同世代の若者に向けて取ったアンケートをもとに、受け手の視点から歌舞伎について考えていきたいと思います。

ここまで読んで頂きどうもありがとうございました!





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