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ガンバ大阪の奥野耕平選手のデータを見てみる

はじめに

ガンバ大阪に奥野耕平という選手がいます。まだ若いですが,それなりに出場機会を得ています。ただし,掲示板では頻繁に批判的な言及をされています。彼に対して「もー!!」って思うこともあることはありますが,サポーターの批判するほどダメな選手じゃないのでは?と思ったので,データで見てみようということです。ちなみに,私と同じように,「本当に使えないのか?」と思ってnote記事を書いている方はすでにいるようです。

奥野選手の個人データ

以下,データはすべてFootball LABのものに基づきます。まずは,奥野選手の個人データを見てみましょう。

数値の解釈はこちらを参照-> https://www.football-lab.jp/pages/playing_style/

よく,「失点シーンでジョグってるのなんでやねん」みたいな批判がありますし,私も彼が結構ジョグっている印象はあります。しかしながら,そういう見方に反して彼はカバーエリアとボール奪取で11という数値を叩き出しています。11は偏差値でいうと60くらいです。偏差値50が真ん中ですから,平均よりも10ポイント偏差値が高いわけですよね。偏差値60の持つイメージは人によって大きく異なるでしょうが,Jリーグの選手の中での偏差値60はそれなりに高いと言ってよいのではないでしょうか。

中盤で同じような役割を担っていると思われる選手でいうと,例えば広島の野津田岳人選手はカバーエリアで15,ボール奪取で20ですので,やはりこういうところとの差はありそうです(ちなみに22シーズンの記事執筆時点では野津田岳人選手はボール奪取ではリーグ単独トップです)。ただし,1ポイント差のボール奪取12ポイントは下記で比較もしますが湘南ベルマーレの田中聡選手と近い数値です(同じくボール奪取12ポイントは磐田の山本康裕選手と鹿島の常本圭吾選手です)。

他チームの似た選手との比較

次に,Football LABでサジェストされる似た選手との比較を見てみましょう。

アビスパ福岡の前寛之選手との比較

まず,出場時間と先発試合数が2倍ほど違うということを差し引いて見なければいけないことを最初に述べておきます。そのうえで前選手と比較すると,ボール奪取は見劣りしますがカバーエリアでは前選手を3ポイント上回っていて,守備ポイントやビルドアップのポイントも同値です。チャンスメイク関係の値(ドリブルチャンス,クロスチャンス,パスチャンス)の数値は前選手のほうが上回ります。しかしながら,これはおそらくチームでの役割上,奥野選手はどちらかというと6番(アンカー)的役割を担うことが多いからでしょう。

直近の清水戦(8/14)ではダワン選手が6,奥野選手が前目で8番(インサイドハーフ)の役割を担っていたように思うので,そのあたりは今後変化があるかもしれません。ただし,奥野選手にその適性(より攻撃に関わって得点やアシストが求められるポジションへの適性)があるかというと,今の所のその印象はないです。

湘南ベルマーレの田中聡選手との比較

次に,湘南ベルマーレの田中聡選手との比較です。こちらは出場時間と先発試合数でいうと奥野選手は田中聡選手の70%くらいです。

田中聡選手といえば,2002年生まれの20歳で,直近だとドバイカップU-23に出たU-21日本代表にも選ばれているパリ五輪世代の期待の若手です。その世代別代表に選ばれている選手と比較しても,少なくともこのプレースタイル指標という数値上だけでの比較で言えば,ほとんど見劣りしていないと言ってもいいのではないでしょうか。ビルドアップで数値の差がありますが(6 vs. 9),奥野選手の持ち味といえるボール奪取とカバーエリアについては互角で,カバーエリアについては奥野選手のほうが1ポイント上回っています。

自チームの同ポジションの選手との比較

さて,他チーム選手の似たような選手と比較して,著しく奥野選手のデータが悪いわけではないということがわかりました。個人的な印象論でいえば,例えば福岡の前選手や湘南の田中聡選手と奥野選手が「交換」できるとしたら(サッカーにはトレード制度はないので妄想です),前選手や田中聡選手が欲しいと思ってしまいます。しかしながら,あくまでも数値上でいえば奥野選手はその2選手と比べて劣っていると言い切ることはできないということになるのではないでしょうか。

そこで,では自チームで試合に出るレベルなのか,つまり,他の選手を差し置いて奥野選手を起用する必要があるのかについて見てみます(※ちなみに,「差し置いて」というほど奥野選手のプレータイムが多いわけではありません。コンディションが整わず出場時間が短いことが多かった齊藤未月選手と大きく変わらない出場時間と先発試合数です)。

ダワン選手との比較

ダワン選手との比較で言えば,やはり攻撃面で差があることがまず目につきます。ダワン選手はいわゆる「ボランチ」の選手でありながら,チームトップの3ゴール(いや3ゴールがチームトップかい!というツッコミはありますが)を記録しているくらい攻撃に特徴がある印象です。それは数値にも現れていますよね。ロングシュートで11ポイント(偏差値60)を記録していることは,22シーズン4月のJ1リーグ月間ベストゴールにも選ばれた4月6日の京都戦のゴールが印象に残っているのでうなずけますよね。

一方で,守備面でいえば自陣空中線の数値こそ3ポイントダワン選手が上回っているものの,守備は1ポイント差,ボール奪取とカバーエリアに関しては奥野選手が上回っています。攻撃重視の8番役でダワン選手,守備重視の6番役で奥野選手という起用方法は彼らの特徴を活かす戦略として妥当であるという見方ができるのではないでしょうか。

齊藤未月選手との比較

それでは,ボール奪取に特徴があり,イメージでいうと昨シーズンまでガンバ大阪に在籍していた井手口陽介選手と近い,いわゆる「ボックストゥボックス」の選手(自陣ペナルティエリアでの守備から敵陣ペナルティエリアでの攻撃参加までこなす選手)としての印象がある齊藤未月選手との比較ではどうでしょうか。

齊藤未月選手といえば,2019年のU20W杯ではキャプテンマークを巻いたほどの期待の若手です。湘南ベルマーレ出身で,そこからロシアに移籍しましたが怪我の影響で試合にほとんど出場できず,再起を期してガンバ大阪に期限付き移籍した選手です。年齢的にも奥野選手と近いです(齊藤未月選手は1999年1月生まれなので1歳上)。これまでの経歴などを考えれば齊藤未月選手のほうが多くの部分で上回っているかと思いきや,ここでも両者にほとんど差は見られないどころか,ボール奪取とカバーエリアについても実は奥野選手のほうが数値上では上回っているんです。その他の部分では目立って差がつくような部分はなく,齊藤未月選手は(本来のパフォーマンスはもっとすごいというイメージがありますけども)リーグの中で偏差値60以上(つまり11ポイント以上)の数値はありません。ダワン選手はロングシュートで11ポイントありましたので,齊藤未月選手ではなく奥野選手が選ばれたとしても,それは「データ上では」間違った判断であるとは言えないと思います。

倉田秋選手との比較

自チーム比較の最後は倉田選手です。本来であれば山本悠樹選手が比較候補になってくるはずですが,山本選手は怪我の影響で今シーズンは7試合の出場に留まります(先発は3試合)。よって,データが少ないので比較ができません。そんな状況下で,中盤の前から後ろまで幅広いポジションで起用されているのが倉田選手です。

倉田選手もベテランと呼ばれる年齢になってきていますが,2017年には日本代表メンバーにも選ばれていました。倉田選手は近年ではSHでやや内側のポジションを取りながら左SBの藤春選手との連携で崩しにかかわるようなプレースタイルで,守備的か攻撃的かというと攻撃的な選手です。ここ2, 3年はあまり得点を取っていませんが,「倉田の右足だああああああああああああ」で有名な大阪ダービー決勝ゴールをあげた2019年シーズンは7点取っています。

さて,そんな倉田選手との比較で見ると,攻撃面に関わる指標ではやはり倉田選手に分があるといえそうです。ドリブルに特徴がある倉田選手ですから,ドリブルが特徴ではない奥野選手との比較では劣るのはわかりますが,クロスチャンスやパスチャンスでもやはり倉田選手です。攻撃の選手ですからね倉田選手は。

しかしやはりボール奪取では圧倒的に奥野選手に軍配があがっています。カバーエリアは同じくらいですね。倉田選手は割と攻守に幅広く走り回るイメージがありますが,「ジョグってんなよ」とディスられる奥野選手は倉田選手と比較してスプリント(ダッシュ)のイメージがあまりないために走り回るイメージがないのでしょう。しかしながら,その印象とは逆にカバーエリアは倉田選手と互角です。

余談ですが,倉田選手はビルドアップの数値が9と奥野選手よりも3ポイント上回っていますが,これはプレースタイルの違いに起因すると考えられます。倉田選手はキックもうまい(直近での典型例は22シーズン天皇杯3回戦の大分戦の山見選手の裏抜け同点ゴールのアシストになったダイレクトスルーパス)ので,ビルドアップ時にDFラインまで下がって前向きでボールを受けて展開のパスを出すことが多いです(典型は22シーズン第4節のアウェイ磐田戦)。一方で奥野選手は,下がってくることもあるにはありますが,どちらかというと相手FWの間のポジションやそのやや後ろあたりに陣取っていることが多いです。つまり,相手のファーストDFラインの間かやや後ろで,そこでボールを受ければ相手のファーストDFラインを突破できるという位置取りをしています。もちろん相手はそんなところにパスを通されては困りますので,そこにはパスを通させないようなディフェンスをしてきます。そうすると今度は中央を警戒してきた相手の外側にパスコースができるのでそこを使ったビルドアップが可能になるというわけです。ビルドアップの数値にはおそらくですがボールに関与したものが反映されていると思いますが,奥野選手はボールに直接関与していなくてもビルドアップに「見えない」貢献をしていると言えるでしょうし,それが特徴の選手であるように思います。

奥野選手の21シーズンと22シーズンの比較

最後に,奥野選手の昨シーズンとの比較をしてみたいと思います。奥野選手は21シーズンは本職のDMF/CHではなく,右SBなど,本来のポジションではないところで起用されたこともありましたので,そこは考慮に入れる必要がありそうです。

昨シーズンと比較すると,そこまで変化が見えないように見えますが,その中でもボール奪取に関しては高い数値を出しています。奥野選手に求められるものが守備面での貢献であると考えれば,その点に関してだけ言えばレベルアップしていると捉えることもできるのではないでしょうか。

攻撃面で,敵陣空中戦の数値が上がっているのは,印象論ですがセットプレーの影響も多いような気がします(ここが敵陣空中戦にカウントされているかはわかりませんが)。奥野選手はセットプレーではニアゾーン(ボールに近い方のエリア)に走り込んで後ろにすらすことを意識している場面が多い印象があり,そこでしっかりボールに触る場面がそれなりにあるような気がします。これによって,敵陣空中戦の数値が上昇しているのではないかと思っています。

まとめにかえて

本記事では,Football LABのデータを元に,ガンバ大阪の奥野耕平という選手について少し深堀りして見てみました。結論からいうと,掲示板でのネガティブな評価とは異なり,ガンバ大阪に欠かせない守備的中盤の選手として一定の評価を与えてもいいパフォーマンスをしているのではないかというのが個人的な評価です。

確かに,彼は試合の中で印象に残るような,あるいはハイライトに出てくるような目立ったプレーをするタイプではないと思います。守備的中盤として,攻撃局面で相手にとって危険な位置でボールを受けて,決定的なパスを出すとか,守備面での決定機を防ぐような目立つ守備をするようなタイプではないと。しかしながら,彼は他チームの選手や自チームの選手と比較しても決して見劣りしない,派手なプレーで観客を沸かせるタイプではないけれども「黒子役」としてガンバ大阪を支えている,そういう選手なのではないでしょうか。

もちろん,前にボールをつけたい場面で安パイのバックパスを選択してしまったり,または不用意なパスでピンチを招いてしまうようなミスがあったり,全速力で守備に戻って決定機を防ぐような活躍はあまり目立たない,そういう選手です。しかしながら,私の記憶には「危ない!」と思ったところで奥野選手がそこでボールを奪ったりピンチを防ぐクリアをしてくれたような場面も多く印象に残っています。

私は,ほぼすべてのホームゲームを現地観戦するレベルのガンバ大阪サポとして,奥野選手のプレーを評価しますし,彼のこれからの活躍を願ってやみません。

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