【特別企画】2020年アメリカ大統領選を予測してみる(第1回)

普段、政治学の分野で、選挙や有権者の行動などを研究している人間として、特別企画という形で、少しだけ自分の普段やっている知見を元に少しだけ面白い試みをしてみようと思い、noteを書いてみました。


今年の政治の大きなイベントといえば、11月3日に、投票が行われるアメリカ大統領選挙があります。投開票日が近くにつれ、日本での報道も多くなっていき、現職大統領のトランプ氏と、対抗候補のバイデン候補のどちらが勝利するのかが注目されています。

前回の2016年には、勝利が予想されていた民主党のヒラリー・クリントン氏に対して、選挙戦のはじめにイロモノ候補としてみられていたが、共和党の候補者となったトランプ氏が、番狂わせのような形で、最終的には勝利しました。その結果、アメリカ大統領に就任して、4年間の任期の間に様々な政策やパフォーマンスを見せ、その評価は現時点では行えない部分は多いが、良くも悪くもアメリカの問題点を明らかにしてきたと感じます。

では、今回の2020年の大統領選挙は、どのような結果になるのでしょうか。今回は、少し、メディアの真似をして、あと数日後に迫った選挙予測を独自にしてみようと思います。

アメリカ大統領選挙の予測は、専門家や各メディアが挙って行うなど、社会的にも関心のある分野です。
アメリカの選挙の専門家たちは、その経験に基づいたり、経済・社会情勢を鑑みることで。各種メディアは、独自で調査を行い、有権者の意識を把握することで、その予測精度を高めようとしてきました。

その中で、例えば、選挙予測で有名なサイトとしては、メジャーリーグの成績予測システムを開発し、2008年の大統領選挙で全米50州のうち、49州を正確に予測し、のちの2012年の選挙では全50州の勝者を予測したネイト・シルバーが率いるFiveThirtyEightがあります。
彼らは、アメリカで行われる様々な世論調査を統計的に処理することで、アメリカ全体の選挙結果を予測し、高い精度をほこっていました。一方で、2016年の大統領選挙では、各政党の候補者を決める予備選では高い予測精度を保ち、本番の大統領選挙でも、ヒラリー・クリントンが勝利すると予測したが、他の世論調査会社よりもトランプが勝利する可能性が高いことを予測していたとも言われています。

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出所:FiveThirtyEightのアメリカ大統領選挙の特設ページ(https://projects.fivethirtyeight.com/2020-election-forecast/?cid=rrpromo)

また、これらの世論調査会社による予測精度に関しては、例えば、朝日新聞の特集記事や、日本国際問題研究所の記事が詳しいです。

よりシンプルに選挙結果を予測する

こうした選挙予測は、多くの調査やデータを用いて、難しい手法を行う手法が次々と発展していますが、もっとシンプルに予測することもなされています。
それは、世論調査で、回答者に、
「誰に投票しますか?」
という投票の予定・意向を聞くのではなく、

次の選挙では、どの候補が勝利すると思いますか?
という選挙の見通し、勝利者予想をシンプルに聞く質問です。

多くの識者やメディアが、社会・経済状況や、資質、イメージに基づく評価など、多くのデータを収集して予測しているにも関わらず、単に国民に次の選挙の勝者を予測してもらう、ある意味、その人が感じている現状での人気投票の結果ような、非常にシンプルな方法です。
では、このような質問の集計だけで、本当に選挙結果が予測できるのでしょうか?

Graefe(2014)は、この有権者による勝者予想によって、選挙結果がどれほど予測できたかを測っています。
その予測精度は、「誰に投票しますか」と聞く世論調査や専門家の判断などの他の予測よりも、精度がよく、比較した手法の中では、もっともアメリカの大統領選挙の結果を正確に測ることができると主張しています。
Graefe(2014)は、予測精度の検証として、1932年から2012年の間に実施された大統領選挙における217の世論調査を用いて、国民の勝者予想による選挙結果の予測モデルを推定しました。
その後、PollyVoteというサイトにおいて、2016年の大統領選挙の結果を含めて、予測モデルが更新されています。その予測モデルは以下のようになっています。

V(現職大統領の政党候補者の得票率) = 41.4 + 15.9 * E(現職大統領の政党候補者の勝利を予想した回答者の割合)

この予測モデルでは、現職大統領の政党候補者の勝利予想した回答者の割合であるEは0〜1の値をとります。

ですので、現職大統領の政党候補者が、全く人気がなく、誰も勝てないと思われていても場合(E=0)でも、約41%の得票率になることを示しています。
(実際、アメリカは有権者の政党に対する支持する感覚が強いので、勝てないと分かっていても律儀に投票すると考えられている)
また、全ての回答者が現職大統領の政党候補者の勝利を予想した場合(E=1)には、得票率は約57%となるため、現職政党の候補者が大統領に当選することになります。
一方で、現職政党と対抗政党の候補者が拮抗していて、ちょうど半分の場合(E=0.5)には、得票率が約49%となり、対抗政党の候補が大統領になると予測されます。

Graefe(2014)のモデルで、得票率を予測する

では、この予測モデルを用いて、現状のトランプ大統領の得票率を予測してみましょう。

世論調査による各候補の勝利予想データを用いると、現職のトランプ大統領への勝利予測した回答者の割合は、約45%(E=0.453)となっているため、トランプ大統領の得票率は「約49%」となります。
この予測モデルの結果では、多くのメディアが報道している通り、わずかではありますが、民主党のバイデン候補が勝利することになります。

しかし、この国民の勝利予想を用いた予測モデルにも、難点があります。それは、2016年の大統領選挙の予測の失敗の原因と言われている点と同じものです。
2016年の大統領選挙の前で、多くのメディアでは、ヒラリークリントン候補が70%〜99%勝利すると予測されていました。確かに選挙結果をみると、総獲得票数では、ヒラリークリントン候補の方が多く、トランプ候補の方が少なくなっています。ですので、世論調査を用いた選挙の予測は失敗していないともいえます。
しかし実際には、トランプ大統領が誕生したことを受けて、なぜ世論調査からの予測と異なる現実となってしまったのか、検討がなされています。その検討では、全国レベル、つまり最終的な選挙の勝者の予測では正確だったが、個別の州ごと勝者の予測が外れてしまい、選挙制度とも相まって、予測を外してしまったというものです。
(例えば、この記事や、日本語の記事が分かりやすく書かれています)

予測モデルを参考に、自分でも予測してみる

そこで、この問題点を解消するために、Graefe(2014)が行った手続きを真似しつつ、勝利予想データに基づいて、自分なりにアレンジして予測モデルを作ってみました。
そのやり方は、全国単位ではなく、州単位のデータで予測モデルを作成するというもので、Graefe(2014)でも使用しているAmerican National Election Studiesの1976年から2016年の大統領選挙で、州ごとに勝利者予想のデータが存在している376ケースを用いて、同じように予測モデルを立てました。

V(現職大統領の政党候補者の得票率) = 35.42 + 20.25 * E(現職大統領の政党候補者の勝利を予想した回答者の割合)

画像1

図:モデルから推定された予測プロット(縦軸:現職候補の得票率、横軸:現職候補への国民の勝利予測の割合、赤い影は95%信頼区間)
現職候補はより多くの支持を得ていなければならないと考えられる。


この今回作成した予測モデルを先ほどのFiveThirtyEightの10月23日の各候補の勝利予想データを用いると、現職のトランプ大統領への勝利予測した回答者の割合は、約45%(E=0.453)のため、
トランプ大統領の得票率は、「約45%」となり、作成した予測モデルでも、民主党のバイデン候補が勝利することになります。

また、今回作成した予測モデルから、国民の勝利予想がどのぐらいであれば、トランプ大統領が再選するかを求めると、約72%となり、半数をはるかに超えなければなりません。
(この結果をみると、現職の大統領などが圧倒的に支持されていないと再選しないので、おそらく自分で作成した予測モデルの精度はあまり高くないように感じる…)

ただ、Graefe(2014)とPollyVoteの予測モデルだと、国民の勝利予想が54%以上になると、現職大統領の所属政党の候補が当選することになっているので、どっちみち約55〜75%以上の国民が勝利予想をしていなければ、再選することはできないと予測できます。
しかしながら、多くのアメリカメディアが伝えているように、大統領選挙が大詰めを迎えている中でも、世論調査での人気投票は、常に民主党のバイデン候補が50%以上の支持を受けています。
この結果から考えると、トランプ大統領側に何か大きな転機となるようなことが起きなければ、選挙戦に勝つことは難しく、民主党のバイデン大統領が誕生することになるでしょう。

現状での、予測モデルの限界?

一方で、現職大統領の得票率の予測モデルを作成するというのは、少し難しい点があります。それは、アメリカの大統領は2期8年まで、務めることができるため、1期から2期目を目指す大統領選挙だと、多くの場合、現職の方が有利になっています。それは、例えば経済対策を行い、景気が上向きになっているなど、現職の大統領は、自分のやったこと(業績)が国民に見えやすいからです。こうした傾向を業績評価投票といい、実際に、過去のアメリカ大統領選挙を分析した研究では、現職大統領の方が、得票率が高いことを示しているものが多くあります。
(ただ今回の選挙において、現職のトランプ大統領は若干厳しい状況ですが…)
他方、例えば、民主党のクリントン大統領の次には、共和党のブッシュ大統領。その次は、民主党のオバマ大統領のように、大統領を2期8年過ごした後には、退任して他の人物へと引き継がれることになっており、傾向としてそれまでの現職の政党ではなく、対抗政党の候補者が当選することが多くなっています。
そのため、良くも悪くも予測モデルに思わぬ影響が出ているかもしれません。

加えて、今回の予測モデルは、アメリカ全土の得票率を予測するものですが、実際には州ごとに選挙が行われ、州ごとに勝者が決まることになるため、前述の通り、実際の選挙結果と異なってしまう可能性があります。

そこで、次回は、これらの影響を考慮して、州ごとの予測モデルを作成し、より精緻な2020年のアメリカ大統領選挙の予測をしてみたいと思います。


参考文献

Graefe, A. (2014). Accuracy of vote expectation surveys in forecasting elections. Public Opinion Quarterly, 78(S1), 204-232. https://doi.org/10.1093/poq/nfu008


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