吸血鬼すぐ死ぬ対談:前半

「吸血鬼すぐ死ぬ」という漫画がある。作者は盆ノ木至。
ギャグ漫画である。徹頭徹尾ギャグ漫画である。
吸血鬼が日常的に跋扈する世界観の現代日本で、魔都「新横浜」に集うハンターたち、吸血鬼たち、新横浜の愉快な住人、新横浜のおそろしい土着生物がドタバタドタバタくだらない事件を巻き起こし巻き込まれオチをつけて畳む、ほぼ一話完結形式の物語群だ。
週刊少年チャンピオンで連載中であり、現在18巻まで単行本が刊行。
このほどマッドハウス制作でアニメーション化もして大絶賛放映中だ。
たいへんめでたい。

私はこちらの漫画を友人から勧められ、だいたい5巻目か6巻目くらいが発売したころから単行本で追いかけているがアニメは未履修。
しかしこのほど、別の友人(以下まどらと呼ぶ)がアニメ吸血鬼すぐ死ぬを見始めて無事にド嵌りし、単行本で漫画本編を履修し、

「心がギュルギュルするというか、
 ギャグ一辺倒の中に故意にシリアスの影をちらつかせてくるから
 本当……ウゥ……」

と私を前になにかろくろ的なものを回しはじめた。
以下、「吸血鬼すぐ死ぬ」に関する重大なネタバレを含みます。
もはや読んでないと内容がわからないかもしれない。

・吸血鬼すぐ死ぬはホラー漫画

まどら:シリアスを掘り下げても某ネタ画像のごとく「原作者そこまで考えてないと思うよ」の水が差されないんだよね、原作にあきらかに故意にシリアスというかブラックな要素がちらつかせてあるから。

私:わかる。不穏な神社が気になったりもしているよ。
何巻だったかわすれたんだけどさ、「神社に吸血鬼の死体が祀られててそれが吸血鬼を呼び寄せてる」「嘘つくんじゃねえ!」みたいな、本人たちの顔すらないワヤワヤしたセリフだけの、コマとコマの間のつなぎみたいなコマで一瞬だけあの神社に関する言及があるんだよな。
それだけ言われてるんだけど、神社にさあ、いるんだよなあ、なんかが。

まどら:あーーーー。あったわ。それあったわ。
あれ帰ろうねジョン!って言ってる後にコマの配置的にただとほほ!っていなくなった感じではない感じでゴボボ……って何かが退いてるんだよね。
あの話だけ出る奴ならあそこでわざわざもう一回姿を描かなくていいと思うの。

私:でもまだ正体わかんねーしたぶんこれが判明するときは吸死の山場だと思う。

まどら:ヒナイチちゃんが連れていかれそうになった時も鳥居なんだよな……。
白いもやから手だけが伸びてくるのも似てるんだよね。

私:多分おなじものじゃん?で、屋台がぜんぶ血液関係じゃん。

まどら:生き血搾りとかね。普通にこわい。あの漫画の文脈じゃなかったら普通にホラー。

私:あの漫画はそもそも文脈ホラーというか、ホラーの出し方がうまくてさ。野球拳ですら、わたし怖かったことあるもん。

まどら:こゆきちゃんのとこ?

私:そう!あの指切った瞬間のコマだけヒュってちょっと温度がさ。

まどら:あそこぞわっとするよね!?

私:そう!!!あそこ怖かったの!!!!!

まどら:わあうまそー!じゃないんだよ。げへへ、じゃないんだよね。

私:そうなのよ!!!!なんかこう、取り返しのつかないことになりそうな怖さがあってさあ!!!!!!
吸血鬼の食事=殺人であることを明確にしてるのよあそこ。

まどら:あーわかる。ノースディンとかはあんまり殺さない感じではあれどもね。
ドラルクがなんだかんだで血を飲めていないのもわりと不思議というか、こう、あんなに仲が良かったらまあ悪い奴じゃないからなってちょっとくれそうな気もするのに誰もくれないもんね。

私:そうなんだよね。

まどら:ヒナイチちゃんさえくれないもんな。

私:海陸クリオネとか、下等吸血鬼が血を吸っておそろしいことになるのを描いててさ。下等だからぶん殴られて終わってるけど、あれ東京のハンターとかからしたらえらいやつじゃん?
それを描いた上で、吸血鬼に血を飲ませないようにしてる。

まどら:ギャグ漫画としてのキャラづけで野球拳とかおヒマ?って訊くやつ、まじめに考えるとその縛りを自ら設けているよね?って思う。

私:「一定のルールをクリアしないと人間の領域に入れない」の怪異なんよ。

まどら:だからサテツさんに「耳なし芳一みたいにしてろ!」ってのはわりとガチ。

私:だよね!?!?!?「招かれないと入れない」とか「米粒を数えないといけない」とかの流れだよね!!!
ちゃんとそういうのを描いてる。返事をしたらだめなんだよね。

まどら:お祖父様の「おヒマ?」の回。まず冒頭の「若造、無視しても良いから「ヒマ」と言うな」ってのが本当にこえんだよ。お祖父様を「無視しても良い」って言うって相当だと思う、血族には絶対に言わないじゃんあれ。

私:「見えないふりをしろ」ってことじゃん?ちゃんとホラーの文脈なんだよな。すべてが。ギャグとホラーけっこう紙一重のところにある、理不尽なものだから、どっちも。

まどら:ものすごく無邪気だし本当に悪意も害意もないけれど、ロナルドさんのことも多分お祖父様は孫の友達と思ってるけど、ヒマですと答えてしまったらその無邪気なまま多分本当に「遊び」につれていっちゃうんだよな。

私:その「遊び」に人類が耐えられるかとかを加味してないというよりも、「してなかった」んだろうな。今は多少加味してるかんじがある、ヘルシング卿との関わりの中で。

まどら:ドラルクさん、わりと古めかしいしきたりで縛られてるしね。最初の方で「どなたでも〜」の看板外されて事務所に入れなかったり、靴下取られたときにいつものスナァ!じゃなかったり、豆投げられて数えてたり、ギャグに落とし込まれてるけど全部縛りなんだよな……。

私:そうなんだよなーーーーーーーそしてきっちり棺桶で寝てるんだよなーーーー。

まどら:それえ!ベッド占拠とかしてないの。
そしてだからY談おじさんへの「じゃあ遊ぼう」が怖いしかっこいいんだよな。あれおじさんガチでビビってるしその前のコマでドラルクさんが「いま、おヒマかな?」ってわざわざこう、問いかけの定型文にしてるのもぞぞっとしたんだよな。

私:そうなんだよね。「あそこにヒマなやつがいるぞ!!」じゃないんだよ。それだと効力がないの。

まどら:それ〜〜!!!!そう!あいつヒマそうですよって言ってもたぶんお祖父様は律儀に訊きにいくと思う。

私:そう。そして本人が聞きに行くと相手は返事をしないので、あそこで「騙し」が入る。

まどら:ドラルクの狡猾さが見えるんだよなあれ。おにいちゃんがさ、「ロナルドの暴力が封じられてる時のドラルクはわりと正攻法で催眠術とか吸血鬼への攻略を試みるから面白いよね」って言っててンわかる……ってなったんすわ。

私:こう、吸血鬼にもともと存在する「忌諱」のルールをジャパニホラー的な「縛り」に当てはめて描いてるので、実際すげえ怖いんだよな。よく考えると。怖くなく描いてるだけで怖いの。

まどら:Twitterのさ、あぶぶさんって人かな アライさんマンションっていうやつ。ドールハウスのやつこわかったな。あれを感じる、ちょっと。ちいかわのなんとかバニアになるやつの話わかるかな、まあシルバニアなんだけど、あの子らがシルバニアみたいなお人形になっちゃう話あってさ。

私:同類の怖さなんよ、吸死。

まどら:そして吸血鬼おままごといたじゃん。私読みながら気がきじゃなかったです。

私:アーーーーーーーーーーー!!!!!!!!!

まどら:だからおにんぎょうはこえーんだよ!!!!ってなってた。

私:お人形ものの話はだいたいなべてこえーーんだよ。

まどら:吸死はホラーなんよ……なんならマイクロビキニがいちばん優しいというかまとも感すらある、でも公式は無情なのでマイクロビキニことミカエラは兄弟と顔が似てないのがコンプレックスとかそういう設定をつけやがるんだわ。
作者全部わかって描いてるしキャラ配分してるよねあれ。

私:うん、あれ完全に計算されてるし、あの計算された話あのペースで描いてるの作者そのうち死なない?大丈夫?ってなる。

まどら:あとアニメのopのラスサビパート「踊るような心地のままでメメント・モリ」って歌詞があるんですが、ほんと、お前さあ〜〜ってなりました。

私:アニメまだみてないんだよなあーーー。

まどら:あのー、ぜひご覧ください。


中半に続く。

嘘です、後編に続く。




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