吸血鬼すぐ死ぬ対談:後半
前回「中半へ続く」と言ったな。
すまん、ありゃ嘘だ。
「吸血鬼すぐ死ぬ」という漫画がある。作者は盆ノ木至。
ギャグ漫画である。徹頭徹尾ギャグ漫画である。
吸血鬼が日常的に跋扈する世界観の現代日本で、魔都「新横浜」に集うハンターたち、吸血鬼たち、新横浜の愉快な住人、新横浜のおそろしい土着生物がドタバタドタバタくだらない事件を巻き起こし巻き込まれオチをつけて畳む、ほぼ一話完結形式の物語群だ。
週刊少年チャンピオンで連載中であり、現在18巻まで単行本が刊行。
このほどマッドハウス制作でアニメーション化もして大絶賛放映中だ。
たいへんめでたい。
私はこちらの漫画を友人から勧められ、だいたい5巻目か6巻目くらいが発売したころから単行本で追いかけているがアニメは未履修。
しかしこのほど、別の友人(以下まどらと呼ぶ)がアニメ吸血鬼すぐ死ぬを見始めて無事にド嵌りし、単行本で漫画本編を履修し、
「心がギュルギュルするというか、
ギャグ一辺倒の中に故意にシリアスの影をちらつかせてくるから
本当……ウゥ……」
と私を前になにかろくろ的なものを回しはじめた。
以下、「吸血鬼すぐ死ぬ」に関する重大なネタバレを含みます。
もはや読んでないと内容がわからないかもしれない。
吸血鬼ほんとうに死なない?
私:ドラルクさんが正統派吸血鬼なのを踏まえて、洗濯機に入っちゃった回とお風呂に流されかけた時、サラってかいてあるけどかなりのピンチなんだよな。
まどら:吸血鬼クソもやしの時もだけど、ちょくちょくずれを出してくるよね 。
「死ってそんなに怖いかね?」とか。
私:出してくる。
そして、あの人はナギリさんとかとちがって「死なない工夫」をして手に入れた不死じゃないんだよな。日常的に死に続ける
まどら:あの何だっけ。 殺したら負け、死んだら負けの回のやつ。
足元に気をつけることさえしてないんだよなあいつ。
私:危機感ってものがないのよな。
まどら:ただすべての衝撃を死で片づけてきてるんだよね。
私:逆にいうと、まだ死で片付かない衝撃は受けたことがないんだよな。
友達がいなくなったことがないの、ジョンはいっしょにいるし、
友達がいたことがないから。
まどら:だからお祖父様の「人間の友達を大切にな」なんだよね。
私:ノースディンとかお父様とかお祖父様が心配する。
まだ若いから、今がどんなにいい時か知らないから。
まどら:ただ享楽的に死にながらぎゃいぎゃい騒いでいるけど、
そのひとときは永遠じゃないんだよね。
ほぼ200年家族といる又は一人と一匹だったから心が若すぎる。
私:実際二人とも子供なんだよ。
まどら:ロナルドさんもね、子どもだね確かに。
オラーッ!って殴ってその次に蘇らないかも、って考えてない
私:人間付き合いがさあ、できてないよね。
たぶんフクマさんとかのほうがちゃんと人間と付き合ってきてるよ、基準おかしいけど。
まどら:ニャアーーーー
私:ボサツくんwwwww
閑話休題:フクマさん
まどら:フクマさんがちょっとクトゥルフぽいかな?うん?と思ったらどんどんインスマスの佃煮だの出してきたからあっハイッってなった。
私:でもフクマさん自覚としては人間なんだよね。
まどら:うん。ケーキもフナも変だけども。
私:オータム社に勤めてるひとたち、あれを平然と受け入れてんだよな。全員が。アレをくってる。「パン」って言う。
まどら:百万歩譲って海洋生物だけどパンではねえ。
私:動いてるし目鼻があるじゃんよ、いや鼻ないか。目口が。
まどら:わりとマトモですよって顔のサンズちゃんもマトモではない。
私:マトモではない。受け入れている。そもそも三途である。
まどら:それね……みんな地獄系の名前だよね、フクマさんは伏魔殿?だよね。
私:多分??
で、吸血鬼本当に死なない?
まどら:もどして。人じゃないから、ってどこかにあるでしょって思う。
だってお前人じゃねえもん、死なねえだろってあるよね。
私:あの死ぬを死ぬっていってるけど死とカウントしてないのよ
まどら:ただ砂になった、ってだけなんだよな。
私:吸死とダンジョン飯の共通点のなかに、なんというか。
悪い意味で死に「狎れて」しまっている。
まどら:死に慣れている、わかる。そしてさ、毎回ジョンは泣いてるんだよね……
私:そうなの。ジョンだけがそれに狎れていない。死の重みを理解してる。
まどら: 次は目覚めないかもしれないんだよね本当にね。
ジョンは一回離れ離れになってるから取り残される孤独を知ってるんだよね。
私:でもそれを踏まえて死んだドッキリしかけてくるドラ、ほんとうに今のうちにどうにかしたほうがいいぜ!
まどら:それーーーー。あれ普通にブチギレて1週間は口きかないわよ。
私:私なら本気で泣くと思う。信用は財産っていうのを理解してねえのよ。
まどら:私も泣く。泣くしわりとガチギレすると思う。
私:吸血鬼すぐ死ぬっていうか「人間生き返らないからつまんない」って話なんだよなあ。
まどら:
私:おん?
まどら:待っっっ
(注:ここで吸血鬼マイクロビキニ氏の声優が判明しました)
まどら:理解したわ。めっちゃ理解したわ。安元さんがマイクロビキニの声だ。えーと、鬼灯様の声だ。あと野球拳は千葉繁だしマナー違反は鶴丸の声の斉藤壮馬だ。
私:豪華すぎやせんか?
まどら:吸死、声優が豪華ということまで込みで笑わせにきてるよね
私:だってお祖父様の声アーカードだよ。元ネタをこう。
まどら:お父様速水さんだしね……Y談おじさんはマッツハンニバルの井上和彦だし……
私:実はちゃんと全員尋常ではない。
まどら:盆ノ木先生は本当体を大切にして長くこれを描いて欲しい。
あと私は神在月先生も好き。
私:あそこだけほとんどカクシゴトなんだよ
まどら:そして手近な13巻読んだらビキニがいた。
何がムカつくってビキニ、ビキニさえ映さなければ快傑ゾロとかの文脈の顔なんだよな。
私:わかるしたぶんこの場合の想定されてるゾロはアラン・ドロン。
いや往年の俳優さん(ホラーも含めた)意識してけっこう話もキャラもあるよね?
まどら:彫りが深くて目も大きくて全体的に濃いめなのよね、でも若さもあり。くそーっイケメンめ。回を追うごとにイケメンになっていくんだよな 。
初登場とジョンが家出する回見比べたら身体が明らかにカッコ良くなってた。
Y談おじさん、ミカエラ、へんなどうぶつとかの黒目を大きく描いているキャラクターは作者的には顔が整っている美形枠ですって。
私:へんな、あれ何………なんなん……?
あれ吸血鬼とかって枠ではなくない?もうさあ……?
まどら:へんなは本当にあの、なにあれ……ってなる
私:親父はともかくお袋も同族なの近親婚なんだよな、結構な。
それとも噛んで同族にするとそうなるのかなあ
まどら:あ、わかる。あそこどういう?って見てた。
私:ビキニとこの三兄弟もそうだけど、家族関係がしばしばさ?
まどら:ドラルクのママの回はわりとシリアスだったよねあれ。
私:あれ結構怖かった。
家族関係やセクシャリティに関する扱いが丁寧
まどら:ドラルクが明確に「お友達だもん」って言ってるんだよね。
私:あーーーーわかる。わかる。なんとなく、こう、こういうことはあまりないことなのがわかっている。
まどら:まだ若いし全部は分かってないけど208歳ゆえの時間の積み重ねがある。下手したらロナルドさんよりドラルクのほうがたぶんあの境遇を楽しい、大事、と思ってるような気がするんだよな。
私:あと、ドラが「それはあんたのやりたいことだろうが!!!!!」って言い切ったのちゃんと大人として自立した息子でえらいわ。
まどら:わかる!!!!あれすごく良かった。
私:ねーーー!!吸死、そういうところ雑さがないんだよ。
安易に「家族だから」とかで済ませないの、すごくいいとおもう。
まどら:ドラウスも慌ててるしヒナイチちゃんも「親御さんとは言え尋常ではない」って言うんだよなあそこ。
私:そう、ヒナイチちゃんも含めて全員の反応がなんていうか、まっとうなの。
まどら:ご家族の事情だからな!とか言わないんだよね あそこから連れ去られた状況がよろしくないぞと感じるんだよな。
私:そうなの、そうなの、「家族であっても誘拐は誘拐」という姿勢をたもちつつ、「親御さん」って言い方でなんらかの事情があるかもしれないことを鑑みるヒナイチちゃんまじで警察として誠実ですきだよ。
まどら:わっっっかる。クキモンだけど実はまじめって柱でも書かれるけど本当ちゃんとするんだよね、掻き回し要員だけど実はしっかりしているしその真面目さがあの漫画ではギャグになる。
私:しっかりしてるから周りに対応しきれないんだけど、じつはY談おじさんの時にも瞬間的に臨戦態勢とってるし普通に有能なんだよね
まどら:そうなんだよね……しかもちんの加護ついちゃったしね
私:ちん、加護なのか呪いなのかもうわかんないんだよな……
まどら:しかしノースディンの催眠さえ揺らがす……
私:野球拳も効きづらいし、ちょいちょい加護になってるのよな。
下ネタ多いけどこのあたりも含めて下ネタの扱いが全体に丁寧。
下品でないというか。いや下ネタなんだけど。
まどら:本編でもかなり女の子の裸が少ないんだよな、吸死。
ウォータースライダーのブラ投網とかそれこそビキニのバツーンとかを覗くとノースディンのところでもわかりやすいエロい女は描かれてないんだよね
私:少ない。そしてそういう裸よりはキッス女史とか女帝のが遥かにセクシーの文脈で描かれている
まどら:わかる。なんかそういうバランス取ってるよね。
ロナルドさんのスカトロ砂おじさん発言に対してそれは二度と言うんじゃねえ!ってドちゃんキレてたしな。
逆にこうあえてこの表現するけどホモ的感覚を笑いにするという感じはちょっと感じて危うくもあるが、女性に対する扱いがあれだけおっぱいおっぱい言う割に紳士だから良いのかもしれない 。
あんなに女性に興味あるって言うわりに実際マリアちゃんやターチャンの裸には悲鳴をあげて目を逸らすんだよねあの男たち。
私:なんだろ、女性陣に対するその感覚があるから、その「ホモ的」な笑いもあやうくはあってもどちらかというと、「望まぬ恋愛関係はきっつい」って感じでキッス女史の文脈なんだよな。同性愛であることが問題なのではなくて、「今それ望んでない」って感じになるから従来のホモ的な笑いとちょっと文脈が違う。同性愛そのものを笑うかんじはないじゃん。
まどら:うぉぉやったー!じゃないんだよな、バカ何やってんだこっちは男湯だぞとかちゃんと言うし全員真っ赤で困ってるんだよな。
そして美人の色仕掛けはあのサンズちゃんであっても能動的ではないしかならずギャグになる。
私:でもキッス女史がアレであってもひどくならないのは上司の彼の存在や、キッス女史がきちんと友達がいて慕われてる設定や、同じ文脈のなかで……というか、いわゆる従来の「勘違いしてるブスを笑う」って話かとみせかけて全然そういう話ではなく愛を確立した女帝がいるからなわけで………。丁寧………。
考えてみたら人間への吸血シーンがあるのも女帝のところだけだわ。
まどら:きゃーのび太さんのえっちー!ではなくウギャーしずかちゃん!(ドアバーーーン)なんだよな
私:どんな場合であっても望まぬ恋愛やエロは困る、
ってはっきりかいてるからY談おじさんとか野球拳とかへんなとかがめちゃくちゃ迷惑な存在として際立つんだけど、そいつらはちゃんと怒られているし、特にへんなに関しては「楽しくないエッチはダメだと思う」って前提がきちんと彼の中にあるため、猥談と意気投合したとしても「いいやつ」の括りの中に入ってる。
まどら:キン●マ吸血鬼とかわりとビジュアル的に庇えないネタはあれど下地がわりとカバーしてるから読者離れないんだろうなって思う
私:でもあの話もビジュアルは庇えないけど、その庇えないビジュアルの上で「俺は何の努力もしなくても恋愛の対象にされると潜在的に信じてる男性陣の自意識」が笑えるという。
そしてその自意識のためならあのビジュアルを受け入れてしまうやばさみたいなやつがあり、そのものが可笑しいわけじゃないよな。
(これの女性版にキッス女史がもてまくるやつがあるがキッス女史は自意識のありようがまず違うためちょっと話が別になる)
シンヨコ、女性と男性の立場の逆転があるんだわ。気づいた。
かわいい女の子がおじさんにぐへへされるんじゃなくて野郎どもがおばちゃんの群れにサツをねじ込まれて泣く世界観なんだわ。
まどら:結構何回か描かれてるよねあの構図
私:そういうことがあるとなると男だって怖い、っていうのをきちんと描いている上で、世の中に逆の現象がたくさんあるからきちんとミラーリングになってるんだよな。
まどら:お金もらってんだし減るもんじゃないんだから嬉しいでしょ?じゃないんだよね。だからおっ臨時収入!みたいなコマはないし野球拳とかのときの商売に転じるシーンで何やってんだ!ってツッコミがギャグ漫画のかたちでちゃんとはさまれる。
私:シンヨコ、日本国政府の管轄から外れた(?)無法地帯(?)だからか知らないが倫理観がしっかりしてるんだよな。
まどら:それな。わかる。
私:その上で職業ポールダンサーの方にはリスペクトがあり、それによる収入はスキルによるものだから別口扱いという丁寧さ。
まどら:あれエロいから稼げてるわけじゃないんだもんな、ダンスが。
私:あれはダンスがすごいから稼いでるんであって、だから不可抗力とはいえロナさんも楽しそう。
まどら:大変な漫画にハマったな……って気がする わかっていただけるだろうかこの気持ち。
私:毎巻の嘘予告あるじゃん?嘘予告、シリアスにしてるから嘘っていってるけど、(本編はギャグなので)でもだいたい予告と次巻の内容あってんのよ。
まどら:あ、すげータイムリーなんだけど来週そのキン●マ吸血鬼回らしいよ
私:まじか。
まどら:そしてこれは怖い話なんだけどね?ファンブックが出たらしいんですが、事務所の間取りがあるそうですよ。
私:あーー怖いですね。最後に一杯渋茶が怖いやつですね。
この対談の後日、アニメ「吸血鬼すぐ死ぬ」においてマイクロビキニが
エマニュエル夫人の椅子に座って登場したという話をきき、
二人で「どういう解像度の上げ方だよ……」と頭を抱えました。
以上、好き勝手なはなしをしていた対談でした。
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