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人生で最良の言葉のうちのひとつは「これ、いただくわ」

私は買い物が好き。
だいすき。

衣料品、装身具、日用雑貨、食べ物、機械製品、
相手がなんであろうと、基本的に全力を尽くしたい。
買い物は狩りだとおもう。
そして都市生活の美徳の粋だと思う。
物の品質以上の値段を出すのはばかみたいだけど、
けちけちするのはあまりにみすぼらしい。

本当は1パック88円の麦茶とかコンビニで買ってる場合じゃないの。
そういう会社員をしている上でどうしてもやってしまう
無味乾燥で意味のない買い物じゃなくて、
もっと真に無意味で人生に必要なもののために買い物をしたいの。

真に無意味で人生に必要なものっていうのはつまり、
私が着てやらなきゃ他に誰も着ないで燃えるゴミになるような
派手な青地に巨大なオレンジの花のついてる
あまりにも派手すぎて夏服なのに夏の頭に半額になっちゃった
アフリカ調の裾すぼまりのワンピースとか、
そういう私のために仕立てたように似合う服のことよ。

日本で長い事商売してきたけど店をたたまなきゃならなくなった
中華街の小間物屋の奥で埃をかぶってしまって
15年前から同じ額面で黄色く変色した値札がついた
ほんものの硬玉ひすいでつくった「長命富貴」の文字の彫り込んだ
優雅な雲形プレートのことよ。

大して石のことも骨董のこともわかってないけど
長い事骨董屋やってることはやってる
露天のあまざらしの古物屋においてある
箱書きも生産者の名前もかいてないけど
絶対に明治くらいのアメリカでつくられた
ウランガラスの塩入れのことよ。

増粘多糖類とか亜硝酸Naとかソルビン酸Kとか
そういう訳のわからないものの入ってない
ほんものの小麦と砂糖だけで作ったプラム・ケーキと
赤色1号とかOPPとかアセスルファムとか
そういう訳のわからないものしか入ってない
口の中が真っ赤になるべたべたの輸入菓子を
同時に紙袋いっぱい買い込むようなことよ。

買い物がすきなの。
だいすきなの。
いい品物は向こうのほうからみつけてくれるの。
誰がみてもとびきり最高にすてきな品物が
私のほうを流し目で見て
舌なめずりして媚を売ってくるのが好きなの。
向こうも安い品物じゃないから、
大概目玉が飛び出るような値札をぶらさげて
そんなすぐに触れるようながらくたじゃないのよ、
って顔をしているのが、
足しげく通ってるうちにどんどんその気を隠せなくなって
ついに一年後のセールになってもまだ誰も手を付けなくて
1/3値の赤札をぶら下げて私に泣きついてくる瞬間が好きなのよ。
もちろんずっと定価のままでにっこり笑うから
私のほうが根負けすることもままあるわ。
でもそういう、向こうから声かけてくる品物って
よしんば定価でも物に対して高くはないのよ、絶対。

ネットショップも嫌いじゃないけど
本当なら手に通って手に取って買いたい。
ネットでないと流通してないようなものもあるけど
(特に私が手の届くような値段では)
だからやっぱりつかってしまうけど、
検索数を増やすためだけに書きまくられた
テレビショッピング的な安普請の文句が好きじゃない。

【特価】【18金】【アメジスト】【本真珠】
【アンティーク】【レトロ♩】
昭和初期千本透かしヴィンテージレトロリング

見たいな類いのやつね。
アンティークなのかヴィンテージなのかレトロなのか、
そもそも指に嵌めて似合うか試せない指輪を
通販サイトでどうしようっていうの?
みたいなやつね。
このへん愛憎うずまくわけよ。
そんなら怪しい趣味なのかなんだかわからない
端っこにいかにもおばあちゃんがつくりましたみたいな
ビーズのお人形とか売ってる薄暗いお店で
期待しないで入ったのにみつけた、
刻印はないけど本物の銀で瑪瑙がついたブローチとか
そういうやつをさがしにいきたい。

そういう買い物だけして生きていきたいの。
ここんとこしばらくそんなことしてないけど。
澄ましていいたいわ。

「これ、いただくわ」

って。

さて、そんな表題の「これいただくわ」
ポール・ラドニックの小説である。
主人公はお買い物が三度の飯より好き、
人生の涙と歓び、それは買い物!
という、ユダヤ人三人姉妹と甥っ子。
4人は紅葉見物に出かける予定だけれど、
そのなかの一人がふと言葉を漏らす。

「居間の改装をしたいの。
 だから………L.Lビーンに強盗に入るわ」

あいすべきピカレスク!
おばさんたちの旅の行方を
とくとご覧あれ

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これはおひねり⊂( ・-・。⊂⌒っ