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人と企業の関係性をアップデートするには

※この記事は、当社代表取締役の佐野が2019年1月28日にForbes Japanに寄稿させていただいたコラムに、一部加筆修正をしたものです。

こんにちは。佐野です。

2016年8月、政府に「働き方改革実現会議」が設置され、働き方についてとても多くの議論がされるようになりました。

そこで掲げられた検討テーマはどれも重要だと思っている一方で、日本のHR領域のアップデートに取り組む身としては、仕組み的な改革とは別の側面も感じていて、以下のようなつぶやきを(2017年10月に)しました。

つまり、ここで言いたかったことは、表層的な仕組みだけを変えても充実した就業体験にはならないので、まずは根底にある働く個々人を尊重しませんか、ということです。社会全体で就業慣習が見直されていますが、法律を変えるのは政治だとしても、本質的な人と企業の関係性を変えるのは、ぼくたち自身です。

2018年を振り返ると様々なニュースがありましたが、特にパワハラやセクハラの話題が目立ちました。これらの問題は、人と組織に関する考え方(脳のOSと言ってもいい)がアップデートされていないから起こるのではないでしょうか。

理不尽なポジションパワーで人を押さえつけるのは、もはや当たり前に通用することではありません。トップや上司の言うことに無条件で服従する必要はありません。我慢は美徳ではありません。

経営者のみなさん、いまは「働く側が企業を選ぶ時代」だと、本当に思っていますか。思っているなら、これまでの慣習をどう変えますか。働いているみなさん、古い価値観のまま変わらないトップや上司に辟易としたなら、見切りをつけて会社を辞めることはできますか。

日本のHRマネジメントに根付く「終身雇用が招いた負の遺産」

では、これからの人と企業の関係性はどのようにアップデートすると良いのか、大きな方向性について考えてみます。まずは、日本の企業文化、組織文化がどのような構造になっているかを考察しましょう。型をやぶるのはかっこいいですが、そのためには、型を知らないといけません。

多くの日本企業では、企業側は「終身雇用」を提供し、それに対して、働く人たちは「限りなく会社のルールに従います」という価値を差し出すという考え方が、人と企業の関係性の基盤になっています。

この関係性は、戦後の高度成長期〜バブル期に確立されましたが、日本人というのは「滅私奉公」という言葉があるくらいですから(しかも美徳とされていた時代もある)、個人主義的な欧米と違い、当時は文化的にもしっくりきたのかもしれません。

しかしながら、バブルが弾けて経済成長が鈍化し、「失われたウン十年」と言われる時代になると、企業側が提供してきた「終身雇用」が不履行になるケースが出てきます。にも関わらず、「滅私奉公」的な文化は依然として色濃く残っていると感じます。

形骸化した年功序列制度や一方的なヒエラルキー構造、こういったものが「終身雇用が招いた負の遺産」となり「当たり前」になってしまったことが、冒頭で触れたパワハラやセクハラの根っこにあるのではないでしょうか。

人と企業の関係性を「終身雇用」から「終身信頼」へ

ここで、ぼくの友人の篠田真貴子さんが監訳された『ALLIANCE アライアンス』(著者:リンクトインの創業者リード・ホフマン氏)という本を少しご紹介します。この本の序文で、篠田さんは「終身雇用ではなく終身信頼」ということを仰っており、人と企業の関係性のあり方の一つを示唆されています。

篠田さんとおしゃべりをしているとき、次のような話をよくします。

「この本はアメリカの社会や企業文化を前提としていて、日本とは『信頼』をキーワードにする背景が違う」

篠田さんは日本的企業文化の代表格とも言える銀行での就業体験に加えて、留学経験や外資系企業での経験もあるので、その違いについて色濃く感じているのかもしれません。

ぼくの理解としては、日本が「信頼」をベースにした関係性を必要とする理由は、先程の通り「約束したことが不履行になっている」ことにより、人と企業の信頼感が薄れているからだと思います。では、外資系企業(あるいはスタートアップ)によく見られる短中期な雇用がいいかというと、必ずしもそうではありません。

この場合、企業への愛着心は醸成できず、非生産的な行動を促す傾向が出てきます。いつか辞めるだろう、と思いながら形式的に遂行した心無い仕事は、不十分で結局直さなければいけなくなったり、引き継ぎを放棄したり、余計なコストを生むことになります。なので、雇用の期間や性質ではなく、こういった「契約性」とは別の概念を模索する価値はあるわけです。

「契約性」を前提とした従来のHRマネジメントでは、人と企業の関係性が途切れるポイントは大きく二つあります。

一つは、エントリー時です。採用活動において、入社するか・しないかは働く側と会社側、双方の意向が合致する必要があります。会社側は入社してほしいと思っても、働く側のモチベーションが合致せず、入社に至らないケースというのは珍しいことではありません。

また、働く側がどんなに懇願しても、個々人の事情や会社側の都合で入社に至らないケースがあります。従来の考え方では、採用活動は時間軸があまり存在せず、入社しなかった人と企業の関係性はここで離脱します。

もう一つは、退職時です。退職した人材の再雇用というのも、一部の企業では取り組みをはじめていますが、まだまだ一般的ではない考え方です。ですので、退職した後、人と企業との関係性が途切れるのであれば、辞め方に良いも悪いもなく、会社都合による一方的な引き止めや会社に不利益となる辞め方も必然となります。

つまり、これらは「契約ができない」あるいは「契約が終わる」ということが、「関係性が途切れる」ということになっているわけです。労働人口が減り、限られた人材と時間で最大の成果を出していかなければならない状況で、「契約性」をベースにしたHRマネジメントは、限界に来ているのではないでしょうか。

ここまで読んで、構造がわかりにくいなー、と思った方。正しい(ぼくもそう思う)。なので、図にしてみます。

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「信頼関係」を基盤にした今後のHRマネジメントの方向性

では、「信頼性」を基盤にした関係であればどうでしょうか。エントリー時の採用活動は、目的が「いま採用(契約)するかどうか」という狭義な発想ではなく、「長期的に信頼関係をつくれそうか」になります。目的が変われば、当然活動内容は変わります。

また、入社した後も、定期的に役割や動機について、お互いに腹落ちする時間を多く持つことも重要になります。目標そのものというよりも、目標に対する「腹落ち」をどうつくっていくかということです。

かつての終身雇用では、入社後に定期的に関係性を見直す、あるいは再考するという発想が希薄でした。そのため、決められたルール(予算、働き方、評価や報酬など)に沿って働くことが普通です。「信頼」というのは双方が積み上げていくものだとすれば、「終身雇用」だとしても、実態としては「短中期雇用の保障」と「提供価値」の「連続的な積み重ね」になります。

お互いがしっかりと信頼関係を積み上げていき、それでも自社以外で活動の場を設けたほうがいい、という場合は「退職」となりますが、それと関係性が途切れることは同義ではありません。退職後も、仕事や人材の紹介をしたり、あるいは再雇用ということも珍しくなくなりました。

退職時にも、形式的な手続きだけではなく、今後の関係性についてしっかりとコミュニケーションを取ることは有益です。先程紹介した『ALLIANCE アライアンス』にも、企業の卒業生たちとどのように関係性を築いていくのか紹介されています。

ここまで読んで、何言ってるのかわかんねぇな、と思った方。正しい(ぼくもそう思う)。なので、こちらも図にしておきます。ざっくり言えば、インターナルなコミュニティに加えて、ゆるくつながるコミュニティもHRのマネジメント対象になり、双方に影響しあって別の形になりそうだね、ということです。

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いずれにしても、これまでのHRマネジメントのように、契約の有無によって関係性が途切れるということを前提とせず、誰と信頼関係を構築し続けるのか、という発想で人と企業の関係性を考えるのが、今後のHRマネジメントには有意義ではないでしょうか。

「従業員の幸せが大事」と耳障りがいい事を言うのは簡単です。口ではそんなことを言っていても、従業員の報償は変えずに自分の報酬だけを内密に爆上げしている言行不一致な経営者もいます。

2019年は、本気でHRマネジメントをアップデートしようと思っている会社(あるいはもう取り組んでいる会社)がますます伸びると思いますし、対等で気持ちのいい関係性から生み出される価値が世界を変えていくと信じてます。

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